小池百合子東京都知事の“直接参戦”で、俄然盛り上がってきた解散・総選挙。そこで今週は、コラムの連載開始から100回目を迎えた政治評論家の池田和隆氏に、総選挙を100倍おもしろく見られる方法を聞いてみた!!
希望の党が東京でも苦戦しそうな理由とは
池田
「小池さんが参戦したところで、野党が過半数を獲るわけではありません。希望の党がどれくらい議席を獲得するか?自民党はどの程度の勝ち方か?民進党がどれだけ“滅亡”に近づくか?
それくらいしか不確定要素はない。
しかし、来年ではなく今のタイミングで解散したことは、各党のキーマンに大きな影響を与えました。
彼らの本音を知ると、総選挙ウオッチが非常におもしろくなりますよ」
まず、解散を決めた安倍首相の本音とは?
池田
「安倍首相はなぜ、今のタイミングを選んだのか?
民進党がボロボロで、第三極の準備も整わない今なら勝てるからという分析では不十分です。
安倍さんが最も気にしていたのは、来年に控える自民党の総裁選です。
森友学園や加計学園の問題で内閣支持率がガタつくなか、ポスト安倍を狙う石破茂さんや岸田文雄さんが活気づいていました。
もし、10月に予定されていた衆議院の補欠選挙で自民党候補がひとりでも落選しようものなら、安倍さんではなく“新しい顔”で総選挙に臨むべきだとの声が党内から上がる気配だったのです。
安倍さんは解散の理由をいろいろと並べていますが、本音では、総裁選の前に解散・総選挙をやり、東京オリンピックの後まで政権を続けたいという一心だったのです」
石破さんにとっては最悪のタイミングってことか。
池田
「解散が決定的になった直後、石破さんは遊説先の愛知県で解散・総選挙に否定的な発言をしています。
『都議会議員選挙で起こったことは、必ず次の国政選挙で起こる』と。完全にボヤキ節ですね。
『フザけんなよ、俺が総理になる夢が台無しじゃねえか』というのが本音でしょう。
もし来年の総裁選までの間に安倍さんにエラーがあれば、次の総理総裁になれたかも知れないのです。ボヤきたい気持ちも理解できますが」
野党側の本音は?
池田
「今の自民党に不満を感じている国民が多いことは明白です。
しかし不満の受け皿となるべき民進党がとてつもなくダメなので、自民党への批判票が共産党に流れる情勢でした。
しかしそこに小池さんの直接参戦です。
これで共産党は浮動票に期待できなくなった。共産党にとって本当に憎い敵は、自民党ではなく小池さんでしょうね」
確かに!
池田
「小池さんは、安倍首相が解散の意思を表明したその日に、自らが党の代表になって戦うことを発表しました。
各メディアは小池さんに注目し、この流れは投開票日まで続くでしょう。新党の宣伝という意味においては、この戦略は正しかった。そして、誰にも知られていない状態でサプライズ表明することで、世間に与えるインパクトも強めた。
しかしその代わり、とっても重要な党への事前の根回しを怠ってしまった」
公明党か!
池田
「そのとおり。都民ファーストの会は東京都議選で、公明党を味方につけて大勝利しました。
特に小選挙区制では公明党票の“ゲタ”が大きく勝敗を左右します」
でも公明党はもとから総選挙では自民党支援じゃ?
池田
「そうですが、公明党の支持母体である創価学会員には自民党への支援を快く思っていない人たちも多いんです。
しかし小池さんが公明党への事前説明を怠ったことで、完全に彼らを怒らせてしまった。
『(公明党の)山口代表の顔に泥を塗ったな!』と。
こうなると、自民党支援に消極的だった人たちも、超熱心に応援し始めてしまう。小池さんは会見の際に記者から『首班指名は誰にするのか?』と聞かれ、咄嗟に山口さんと答えて取り繕いましたが、彼らの怒りは収まらないでしょう。
東京では希望の党が有利という見方が強いですが、私はそう思いません。公明党を敵にまわしたことで、かなり苦戦を強いられると思います」
選挙って深いなあ! で、民進党は?
池田
「民進党ですか……、もうどうしようもないですからねえ。前原代表の心境をあえて代弁するなら、『座して死を待つ』とか『無の境地』とか『茫然自失』とか、そんな感じではないしょうか……」
少しだけ議席が減るのは自民党にとっても好都合
池田
「総選挙後のお話もしておきましょう。おそらく自民党は、少しだけ議席を減らし、“ちょうどいい勝ち方”をすると思います。
憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席は得られず、安定多数は確保できるくらいの絶妙なラインではないでしょうか」
ちょうどいい勝ち方って?
池田
「例えば自民党幹事長の二階さんは“親中国派”です。
中国が嫌がる憲法改正などもってのほかという考えです。さらに、“魔の二回生議員”による不祥事の連鎖も頭が痛い。彼らが選挙で“リストラ”されれば、二階さんにとってはまさに一石二鳥でしょう」
でも、安倍さんにとってはちょうどよくないよね?
池田
「これが違うんですよ。安倍首相が本当に憲法改正をしたいのなら、とっくに行動に移せたはずなんです。
現状で衆参の3分の2以上の議席があるのですから。では、なぜやらないのか? ポーズだけなんですよ。
現行憲法下でも自衛隊は存在できているし、集団的自衛権もクリアできたし、アメリカから改憲しろとも言われていない。
何の問題もないんです。
逆に改憲を行動に移せば大騒ぎする人たちも多く、安倍首相にとってはリスクでしかない。
ちょうどいい議席数になれば、『日本の安全を守るため、私に憲法改正が可能となる議席数をください!!』と次回の選挙でも訴え続けられる。今後も“改憲のポーズ”を取れるわけです。
そんな状況こそが、安倍政権の超長期政権化を実現するために最も必要な環境なのです。
つまり小池さんの直接参戦は、結果的に安倍政権の延命をアシストしてしまっているのです」
政治家の本音と建前って、エゲツないけどおもしろいなあ!
週刊プレイボーイ 2017年 No.42号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.100 特別編」より