初盆、集会、イベント……。本当に毎日200〜300㎞走る!
池田
「今週は、国会議員とその秘書が夏休み中にどのような活動をしているのか、その悲惨な舞台裏を紹介しましょう。例年、6月中に通常国会が閉会してから、秋の臨時国会が召集される10月中旬頃までが休みとなります。本当に休めるのなら最高なのですが……」
過酷な夏休みなの?
池田
「政治家も秘書も地元選挙区を走り回らなくてはならず、1日も早く国会が始まってくれと思うほどに過酷です。先日の安倍内閣改造人事で入閣して早々、高額なガソリン代の問題が浮上した鈴木俊一五輪担当相の例で解説しましょう」
鈴木善幸元首相の息子だね。
池田
「そうです。鈴木氏の資金管理団体が2013~15年の3年間に計上したガソリン代は計1412万円。1回の支払いが174万円に上るケースもあったので、これは多過ぎるのではと一部の新聞などが騒いだのですが、新聞記者なのに政治の実態を知らないんでしょうね。政治資金収支報告書では、ガソリン代が『備品・消耗品』という項目に分類されています。ガソリンのみらず、過酷な使用環境で消耗するタイヤやエンジンオイルの交換費、部品代など、あらゆる維持費もすべて含めた金額なのです」
そんなに走り回るの?
池田
「鈴木氏の事務所は、岩手県の地元選挙区で7名の秘書が1日250~300キロくらい各地を回っていると説明しています。私が仕えた故松岡利勝農水大臣の地元秘書も、熊本の選挙区で同じような距離を走り回り、自腹で持ち込んだ車も2、3年でスクラップになったことを思い返します。鈴木氏とその秘書は優等生といえるでしょう」
どうして毎日数百キロも走り回る必要があるの?
池田
「選挙で勝つためです。地元秘書は普段から選挙区を回っていますが、夏休み中は議員本人も加われるので忙しさが倍増する。盆踊りや花火大会などの夏祭りもそうですが、夏場はイベントが目白押しです。例えば農業関係者の場合、田植えが終わりひと段落したこの時期に会議や集会をよく開きます。農協だけでも1日5か所くらい挨拶に行き、その道すがら支援者の農家を回ったりする。さらに地元企業や各種団体などによる、暑気払いの飲み会や業界交流イベントも盛んに開かれます。町内会や子供関係のイベントも多いし、田舎では1年以内に亡くなった親類縁者を悼む『初盆』への参列も支持者を固めるチャンスです。ただ残念なことに、これらの努力はほとんど選挙に影響しませんけどね」
ええ~っ!?
池田
「自分に得がないのに、地元のイベントに政治家がやってきて『よろしくお願いします』と言われただけで、応援する気になりますか? 政治家や秘書から『いつもお世話になっています。困ったことがあったらなんでも言ってください!』などと親身になられなければ、票にはつながらないものです」
でもそれって悪名高い“口利き行為”じゃないの?
池田
「意外に思われるでしょうが、国民と政治家との距離を詰めるためには、政治家の役所への口利きは絶対に必要です。子供や孫が保育園に入れない、就職や転職がしたい、防犯用の街路灯を設置したい、政府系の金融機関からの支援がおりない、家族の病気や入院に際して病院が融通をきかせてくれないなど、日常生活で困ることの多くが役所の壁に邪魔されています。そんなとき、国民の側に立って役所を動かすことこそ本来の政治家の仕事なのです」
言われてみれば……。
池田
「昔は選挙区回りのことを“御用聞き”と言っていたほどです。もしその口利きが多くの人の不利益になれば、政治家が責任を取ればいいだけのこと。生活者の目線で見れば、投票するだけで政治家の事務所を無料の法律や行政の相談所のよう使えたので、まだ昔のほうが国民と政治家の距離がずっと近かったのです」
週刊プレイボーイ 2017年 No.36号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.95」より