毎日6、7時間も!! 大臣レクチャーの闇実態
池田
「今週は内閣改造が行なわれる予定です。現時点で閣僚の顔ぶれはわかりませんが、断言できることがあります。それは誰が初入閣しようと、結局は役人の利益のために働かされるということ。そこで今回は、役人たちが大臣に仕掛ける巧妙な罠の実態を解説しましょう。省庁の役人が大臣に行なう報告や相談のことを大臣レクチャー、略して“大臣レク”といいます。大臣レクの存在自体はご存知の方も多いかと思いますが、今回はその裏側を明かします」
それは知りたい!
池田
「まずは大臣の1日のスケジュールを把握しておきましょう。朝は8時くらいから閣議や党の部会への出席などで始まります。日中は国会の委員会で答弁をしたり、国や省庁の行事に参加する。夜はだいたい2、3件ほど予定されている会食や行事に顔を出すので、仕事が終わるのは夜11時くらい。さらに少しでも空き時間があれば、後援者と会ったり秘書からの様々な報告を受けるわけです」
意外と忙しいなあ。
池田
「そんなスケジュールの合間の時間も、大臣レクで埋め尽くされるのです。私が仕えた故松岡利勝農林水産大臣の場合は入閣前から農政に精通していたので、大臣レクは1日3、4時間ほどでした。しかし初入閣の大臣ともなれば平気で1日6、7時間になるのが普通です。不慣れな疲労のなか、連日役人たちから膨大な量の報告を受け、『大臣、では今報告したとおりなので、この案件は了承ということでよろしいですね?』と聞かれ続けるのです。どんなに頭が良くても、次から次へと何十人も押しかけてくる役人を相手に、小さな問題点も聞き逃さずに指摘するのは困難です。役人は、そんな状況を意図的に作り出しているのです」
それが本当の狙いか!
池田
「その結果、大臣本人には覚えがないのに了承したことになっているような事案が大量発生するわけです。私が関わった例でいうと『農林水産大臣賞』がありました。この賞は全国菓子大博覧会というイベントで受賞商品が決まるのですが、大臣秘書官だった私はもちろん、大臣本人も、審査はおろか食べたことさえありません」
ええ~っ!?
池田
「食べる機会があったとしても、受賞後にその会社がお土産として持ってきたときくらい。つまり受賞者を決めているのは、役人と、彼らと結託した菓子の業界団体幹部自身なのです。当時、私がその呆れた実態に驚いて役人を問いただしたところ、『大臣にはちゃんと大臣レクで報告のうえ、ご了承をいただいております』と涼しい顔で言われたものです」
信じられん舞台裏だ。
池田
「大臣レクの真の狙いはふたつです。まずはどんな事案も大臣の了承済みという形にして大臣を形骸化させること。そして何か問題が発生した際には、大臣の指示に従っただけの役人は絶対に責任をとらず、大臣に腹を切らせることなのです」
悪質の極みだな……。
池田
「この仕組みは全省庁のスタンダードです。稲田朋美さんの件で話題になった防衛省も同じ。自衛隊のPKO派遣は非戦闘地域であることが条件ですが、派遣先で内戦が発生した。しかし防衛省の役人たちは大臣にも事実を隠蔽したはずです。防衛省の役人は稲田さんへの膨大な大臣レクのなかで、意図的に目立たぬよう虚偽の報告をしたのでしょう。しかし隠蔽が表面化したので、大臣を交代させることでうやむやにして“真犯人”である役人は誰ひとり責任をとらない。この体質は国家公務員だけではなく、地方公務員も同じです」
東京都庁を見たって誰も責任をとらないもんなー。
池田
「たとえ新市場移転やオリンピック関連で何千億円もの損失が出ても、役人はひとりも責任をとらない。安倍首相が一新すべきは内閣の顔ぶれではなく、役所全体の仕組みなのです」
週刊プレイボーイ 2017年 No.33号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.93」より