永田町で語り継がれる「首都高置き去り事件」
池田
「今週は、豊田真由子衆議院議員の秘書暴行事件についてです。『このハゲ〜っ!!!』と自分の秘書を罵り、音痴すぎるミュージカル調の暴言を浴びせながら叱責し、暴行を繰り返していた騒動ですね」
死ぬほど面白い事件だけど、当事者は悲惨だよな~。
池田
「この事件を受けて、『政治家の質の劣化を止めなくてはいけない』などというコメントが飛び交っています。しかし長年国会議員の秘書を務めた私に言わせれば、その認識は間違いです。しょーもない政治家は昔からいたからです」
具体例は言えますか?
池田
「現職だと大騒ぎになるので、引退した人の例を紹介しましょう。武藤嘉文(故人)という、当選13回の元外務大臣はヒドかった。彼は世襲議員でエリート意識が強く、陰険で細かくて、とにかく超イヤな奴だと有名でした。当然、武藤さんの事務所では秘書が数ヶ月ごとにバンバン辞めていた。そして彼は、今でも永田町で語り継がれる、『武藤嘉文、首都高置き去り事件』を起こします」
なにそれ! 超面白そう♪
池田
「今話題の豊田氏と同じく、舞台は車中でした。秘書の運転で首都高速を走行中、武藤さんはいつものように激しくネチネチと秘書さんに口撃を加えていた。すると以前から我慢の限界を超えていた若い秘書さんが、『もう無理です。辞めさせてもらいます!』と言い残し、なんと渋滞で停車中だった車から降り、首都高の非常口から帰ってしまったのです。残された武藤さんは自分で運転して事務所に戻ったそうです。この事件は当日中に永田町を駆け巡りましたが、武藤氏に同情する意見は、秘書仲間からも政治家側からも皆無でしたね」
池田さんもよく怒られた?
池田
「私が仕えた松岡利勝元農水大臣は、新党大地代表で元自民党の鈴木宗男さんと並んで“ヤバイ代議士ツートップ”と称されていました。本当に厳しくて激しくて有名だった。松岡さんは政策通でありつつも、元官僚とは思えない破格の行動力で、官僚相手にはもちろんのこと、格上の超大物政治家にもガンガン噛み付くことから、“狂犬”といったイメージで恐れられていました」
そりゃ大変そうだ……。
池田
「官僚や政治家相手でもそんな態度ですから、遠慮の必要がない秘書を叱るときの怒声の大音量と恐ろしさは想像を絶するものでした。表現が難しいですが、豊田氏の100倍以上はヤバイと言えば伝わるでしょうか。その雷鳴のような怒声は議員会館の廊下中に響き渡り、同じ階の事務所の秘書さんたちからは、『松岡さんが事務所にいるのかどうかはすぐに分かる』と笑われるくらいだった」
ひょえ~。
池田
「その怒声と叱責を一身に受けていたのが当時の私でした(笑)。松岡さんと同期の細田博之自民党総務会長や河村建夫元官房長官をといった同僚議員や先輩秘書たちからは『池田くん、あんた本っ当によく耐えてるねえ』と心底同情されていたのは懐かしい思い出です。しかし私にとって、松岡さんの“鬼の叱り”は理由と内容が正しく、愛情もあった。だから今の私ができあがったのだと感謝しています。そんな“永田町一の怒られ男”だった私から言わせてもらうと、今回の豊田議員の暴言は単なる感情的な怒りでしかなく、低次元すぎます。相手が抵抗しないことを分かった上で、理不尽な怒りをぶつけているだけ。人の上に立つ資格そのものが無い人物だということです」
そんな人が国会議員になれちゃうんだもんなあ。
池田
「人格がお粗末な豊田氏が、人よりも少し勉強が出来ただけで厚労省の官僚になり、さらにその経歴だけで国会議員になれてしまった。これは政治家の劣化云々ではなく、そういう人を数多く当選させてしまう、政治家選びの仕組み自体を見直すべき時期にきたと思っています」
週刊プレイボーイ 2017年 No.29号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.89」より