トランプの“お家事情”が軍事介入を決断させる!?
池田
「5月21日、北朝鮮はまたもや弾道ミサイルの発射実験を強行しましたね。だんだん慣れてきてしまう感覚が恐ろしいのですが、この緊張状態は最終段階に達したと言わざるをえません。そこで今週は、今後の展開について解説します。今回のミサイル発射は、アメリカのトランプ大統領が初の外遊先にサウジアラビアを選んだことを受け、アメリカの目を再び北朝鮮に向けさせることが金正恩氏の狙いだとの解説をよく聞きますが、その分析は的外れです。金氏が今最も気にしているのは、中国の動向だからです」
中国へのアピール弾!?
池田
「中国は今まで、北朝鮮に対する国際的な外交圧力に同調するふりをしながら、実は裏で石炭や石油などの戦略物資を融通してきました。中国にとって、金政権崩壊後の北朝鮮にアメリカ主導の民主国家が誕生するのが最もイヤだからです。そんな中国が、今回は本格的な経済制裁を行なう気配をみせている。これは、中国が中心となって金政権崩壊後の北朝鮮を統治するという“密約”が、米中の間で成立した可能性が高いことを示しているのです」
金正恩氏は中国に対してブチギレてんのかー。
池田
「そうです。追い込まれた北朝鮮を待つ今後の展開は、以下の3パターンだけです。
① 核保有国として金政権存続。
② 徹底した経済封鎖などの外交的圧力で金政権が崩壊。
③ アメリカの軍事的な攻撃で金政権を打倒」
①の場合、日本への影響は?
池田
「現状維持なら比較的マシじゃないかと思いがちですが、それは違います。なぜなら北朝鮮が核を保有した状態が維持されるということは、その現状を中国がアメリカに認めさせたことを意味するからです。つまり中国は超大国アメリカを抑え、さらに金氏に大きな恩を売ったうえで核保有国を傘下に収めることになる。これは外交戦略上、アメリカに対する完全勝利を意味します。同時に、今後の中国の膨張政策を制止できる国や勢力が世界からいなくなることも意味しているのです」
最悪じゃないか!
池田
「日本がまったく逆らえないアメリカを中国が抑えるのですから、尖閣諸島や歴史認識などで日中間に摩擦が発生しても、日本の主張が通ることは100%なくなります。でも現実的には、②のシナリオの可能性が最も高いでしょう。しかしこの場合も中国が主導権を握ります」
どうして!?
池田
「中国が本気の経済制裁を行なえば金政権の命運は尽きます。中国の制裁が決定打となって金政権が屈服した場合、その後の北朝鮮と東アジアにおける中国の影響力は絶対的なものになるのです。これはアメリカにとって非常に憂慮する事態です。だからアメリカも決定的な役割を果たす必要が出てくる。それが③のシナリオです」
アメリカの軍事攻撃か!
池田
「日本の報道では危機感が伝わりにくいのですが、アメリカのトランプ大統領は今、FBI長官の解任劇を発端とする捜査妨害疑惑で、かなり危機的な状況に追い込まれています。そんな“お家事情”が強く影響して、軍事行動に踏み切る可能性は高い。金政権を打倒するという華々しい成果をあげることは、アメリカ国民からの疑惑の目をそらすためにも非常に魅力的な選択肢だからです」
てことは、日本にとっては③のシナリオが一番いいの?
池田
「これがそうでもないんですよ……。アメリカは中国による経済制裁に便乗する形で金氏個人の殺害と核兵器の破壊を行ない“勝ったことにしておいて、さっさと北朝鮮から手を引くに決まっているからです。つまり②と③のシナリオは同時に発生する危険性が非常に高く、これは日本にとって、①の場合と比べ物にならないほど最悪の展開なのです。その場合の具体的な悪影響については、来週以降に解説しましょう」
週刊プレイボーイ 2017年 No.24号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.84」より