米中が話し合った金政権崩壊後のシナリオ
池田
「今週は北朝鮮情勢です。北朝鮮は14日早朝、中長距離弾道ミサイルの発射実験を成功させました。多くの人が『またか……』と感じているかも知れませんが、私は『まさか今日とは』と愕然としました。明らかにこれまでとは意味合いが違います」
14日に特別な意味が?
池田
「この日は中国の目玉政策である『一帯一路(海と陸のシルクロード)構想』の国際会議が初開催される日でした。中国人はメンツには異様にこだわります。習近平国家主席は怒りまくったことでしょう。中国は、表面的にはともかく、本気では金正恩政権を打倒する気持ちがなかったことは明らかです。中国にとって、北朝鮮が崩壊後して国連と韓国主導の民主国家が誕生させることは断じて容認できません。韓国には米軍基地があるので、実質的にアメリカ軍と直接対峙することになるからです。つまり北朝鮮にとって、中国を本気で怒らせることは得策ではないのに中国の顔に泥を塗るタイミングでミサイルを発射したのです」
確かにおかしいね。
池田
「金正恩氏に領土拡大などの野心は一切ありません。彼は自分の命と、父親から引き継いだ国家の存続にしか興味がない。しかし近年、自分とよく似た立場の独裁者たちがアメリカの意向によって地位や命を奪われ続けた。リビアのカダフィ氏やイラクのフセイン元大統領、シリアのアサド大統領らです。彼らは皆、国連加盟国の正式な代表者であったにも関わらずです。彼らと同じ運命をたどらないためにも、金氏は保険としての核武装を絶対に譲れない。ではなぜ、中国を怒らせる行動に出たのか? その疑問を解くには、もうひとつの不自然な謎を解く必要があります」
不自然な謎!?
池田
「4月の米中首脳会談以降にたて続いた、短距離ミサイル発射実験の失敗です。より難しい14日の中長距離の弾道ミサイルの実験は、着弾の位置までほぼ正確に成功させたとみられている。なのに、より簡単な発射実験を、1度や2度ではなく4度も連続で失敗するのは明らかに不自然です。これは北朝鮮が暗にアメリカと中国に示したメッセージだとみていい」
メッセージって?
池田
「核を破棄するのではなく、表面的に“失敗続きのレベル”で凍結して、アメリカ本土に到達する長距離弾の開発は止めるということです。金正恩氏の本音は、この妥協案で中国にアメリカを説得して欲しかったのだと思います。しかし米中が出した結論は、金氏が望むものとはまったく違うものだったのでしょう」
米中の結論とは?
池田
「FBI長官の解任で批判されまくり、国内の足場がガタガタのトランプ大統領にとって、米国民の目を北朝鮮問題に向けさせることは大きなメリットです。非人道的で国連制裁決議にも違反する金政権を圧倒的な軍事力で制裁して圧勝することで、支持率は回復する。しかし問題は“その後”です。金政権の崩壊後にアメリカ主導で民主国家を作れば中国が黙っていない。だから表向きは国連主導の下で、事実上、中国の統治下に置くというシナリオで米中が合意したのではないかと思います」
それに怒って、北朝鮮は14日にミサイルを発射しのか!
池田
「そうです。まさに米中という大国のエゴ丸出しの結論ですが、『米中による北朝鮮問題の解決』というのは、現実的な妥協点とも言える。そんな状況下で、私は所用があって外務省に行ったんです。するとアメリカ担当の北米局も北朝鮮担当のアジア大洋州局も、緊張感の欠片もない雰囲気で呆然としましたね。その足で永田町にも行きましたが、議員会館内も普段通りに平和な空気が流れていた。憤りを通り越して思わず笑ってしまいました。米中が勝手に描いたシナリオで北朝鮮が崩壊した場合の日本への影響については、次週以降で解説しましょう」
週刊プレイボーイ 2017年 No.23号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.83」より