何も変化しないだけで大喜びしてしまう日本
池田
「今週はやはり、日米関係の今後を触れるべきでしょう。このコラムの締め切りは日米首脳会談前なので、会談の詳細はわかりません。でも、会談の内容も結果も、それに対する日本のマスコミの反応も、だいたいわかりきっています」
今回はトランプが相手だからいつもと違うのでは?
池田
「そういう考え方こそがアメリカ側の思うツボなのです。この先どうなってしまうのか、事前に日本人を不安な気持ちにさせておけば、『今までと何も変わらないよ』と言ってあげるだけで大喜びしてくれる。こんなに楽でコストパフォーマンスの高い外交手法はありませんよ。おそらく日本の報道では、『日米同盟の重要性が再確認され、むしろオバマ政権時より強固になった』という間違った分析が多く出回ることでしょう」
事実と違うの?
池田
「外交上、アメリカが最優先させたいのは日本ではなく、明らかに中近東の制圧です。トランプ政権はイスラム国を殲滅させてイランも封じ込めたい。中近東に集中するため、東アジア問題を後に回したいのが本音なのです。だからマティス国防長官はまず韓国を訪問し、中国と北朝鮮を牽制した。次に訪問した日本では、『米軍の駐留経費負担も、尖閣諸島の問題も今までと変わらないよ』と言って大喜びさせる。そうすれば東アジアをしばらく放置できるからです」
しかしマティス氏と稲田防衛相による共同会見では、重要なコメントがあったという。
池田
「稲田防衛相は、『日米同盟の抑止力・対処力を一層強化する必要があるということで一致致しました。その上で地域の平和と安定のために、わが国としても積極的に役割を果たしていくこと、また、同盟におけるわが国の役割を強化していくことをマティス長官にお伝えした』と述べました」
どこが重要なの?
池田
「これは官僚が作った原稿をもとにした発言なのでわかりにくいですが、日常会話風に訳してみるとこうなります。『日米同盟の名のもと、日本は兵器と兵力を今まで以上にガンガン増強して抑止力を強化します。そうして、急速に緊張度が高まっているアジア地域で日本がアメリカの代役を果たせるよう、全力で頑張ります』と」
え!? そういう意味なの?
池田
「さらに同じ会見上でマティスさんが“重要”という表現を唯一使った部分があります。『日米同盟の成長に合わせ、両国が防衛の人材、能力に投資を続けることが重要であります』と。これはつまり、『日本もアメリカと同じように、兵力の増員と兵器の増強に多額のお金を注ぎ込みなさい』という意味です。現在、日本の防衛費は年間約5兆円ですが、今後数年間で倍増させられるかもしれません」
ひょえ~、ただでさえ財政難だってのに……。
池田
「在日米軍の駐留経費増額とは話の規模が違うんです。日米首脳会談の真の狙いは、日本の防衛費を大幅に増額させ、アメリカ製の兵器を割高な値段で大量に買わせることなのです。その上でアジア地域における安全保障の日本の負担割合をアップさせて、しばらくは中近東に集中したいわけです」
トランプ大統領、緻密な計算ができる男じゃないか!
池田
「一方の安倍首相は、トランプ大統領による数々の脅しに屈し、防衛費だけではなく数十兆円規模の対米投資と、70万人規模のアメリカ人の雇用創出という手土産までつけちゃった。このように安全保障面も経済面も全面的にアメリカに賭けてしまう政策は、まさに大博打と言えます。アメリカが中近東での戦いに勝てば少しは報われるかも知れませんが、アメリカはここ15年以上、テロとの戦いに負け続けているのが事実。安倍政権は、もしアメリカがコケても大丈夫なよう、中国やロシア、東南アジアなども含めた全方位的な外交戦略を同時に用意して進めておく必要あるのですが、果たして……」
週刊プレイボーイ 2017年 No.9号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.70」より