独自の情報蒐集能力も分析能力もない外務省
池田
「ついにアメリカのトランプ政権が始動しましたね。気になる今後を予測する前に、今週は日本側の対応について考えてみたいと思います。結論から先に言うと、日本政府は今、完全に“思考停止”の状態に陥っています。この現象は、決して初めて起こったことではありません。日本外交の歴史は昔から、世界が激動の時代に入ると必ず思考を停止させ、常に間違いを繰り返してきた歴史なのです」
どういうこと?
池田
「アメリカと旧ソ連による東西冷戦が終わり、今と同様に世界情勢が激変するなか、1991年1月、イラクによるクウェート侵が原因で『湾岸戦争』が勃発しました。この戦争が進行中のある日、故松岡利勝元農水相の秘書を務めていた私は、首相官邸にある内閣官房長官室を訪ねる用事がありました。そのときに私が驚いたのは、有事の際に国の方針を決める国家の中枢であるはずの場所に、何の緊張感もなかったことでした」
どんな雰囲気だったの?
池田
「官房長官も、霞が関から派遣されている秘書官たちも、そのほかの官邸職員も、全員がアメリカのCNNニュースに見入っていただけでした。彼らは口々に、『何かスゴイね、これ。これからどうなるんだろうね?』などと話していた。昼休みのサラリーマンたちが定食屋でテレビを見ながら交わす会話と同じテンションだったのです」
信じ難い舞台裏だ……。
池田
「普通、各方面からの報告がバンバン入ってきて、それらへの対応に追われて緊張感溢れる光景を想像しますよね。違うんです、この国の実態は。当時の自民党本部では、外交部会と国防部会の合同会議が連日開催されていました。当然、報道では流れていない重要な情報が外務省や防衛庁(当時)から開示され、それについて国民の代表である国会議員が話し合い、日本の針路が決められるものだと信じていたのですが……」
……違ったんですね?
池田
「残念ながら。外務省北米局の幹部官僚たちが与党議員に行なう説明は相変わらず、『アメリカ政府からの情報では……』と『今後の情勢を静観するしかありません』の2点だけ。つまり、自分たちで情報を集めて考えたのではなく、アメリカ側の方針決定を待ち、ただそれに従うだけなのです。当時若かった私にもわかりました。これでは、アメリカが間違えば自動的に日本も間違ってしまうと」
ヒドすぎる……。
池田
「2001年に起きたアメリカ同時多発テロ以降への対応も同じでした。アメリカが2003年に始めた『イラク戦争』のとき、外務省北米局の官僚が与党の国会議員にした説明は、『アメリカ政府によると、戦闘自体はごく短期間で終結する』と、『われわれとしては、冷静に事態の推移を見守りたい』の2点。しかし実際には、戦争終結まで8年以上も要したのです」
本当に無能な役所だ!(怒)
池田
「日本のインテリの代表的な存在である高級官僚たちは、アメリカ政府からの情報を鵜呑みにしているだけなんです。そんな形式的な情報分析を土台に、この国の政策は決められている。今も昔も完全に同じ状態です。外務省はわずか10か月前、トランプ氏が大統領どころか共和党の指名候補にもならないと断言していたんです。彼らは世界情勢どころか、アメリカのことさえもわかっていない」
確かにそうだなー。
池田
「最近出された、外務省からの助言をベースにした菅官房長官の政府コメントも、『トランプ大統領の演説や発言の内容は想定内であり、冷静に事態の推移を見守りたい』という主旨のものでした。この発言の危険さは、もうおわかりだと思います。憲法を改正して日本を“普通の国”にしたいとの理念をお持ちのはずの安倍首相が、今こそ普通の国のトップとして、自国の意思で国の針路を決定して欲しいと願うのは、果たして無理な注文なのでしょうか?」
週刊プレイボーイ 2017年 No.7号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.68」より