誘致に燃える人々の思惑が交錯するカジノ法の舞台裏
池田
「あけましておめでとうございます。新年最初は、前号でも解説した『カジノ法案』(特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案)の“闇”について、もう少し踏み込んだ解説をしたいと思います」
前号では、主導する省庁を決めずに『基本法』だけを成立させても、数多くの省庁に管轄がまたがる『個別法』の整備が進まず、いつまでもカジノは実現しないというお話でした。
池田
「個別法とは、用地買収や許認可、自治体への納付金や税金などを決める個々の法律のことです。これらは国土交通省や財務省、総務省、警察庁など、所管する省庁が多岐にわたる。どの省庁を中心に調整するのかを先に決めないと、各省庁が利権を巡る主導権争いを始め、永遠にまとまらないわけです」
今後はどのような展開になるのでしょう?
池田
「カジノ法案自体は、実は20年以上も前から存在していました。しかしずっと棚ざらしの状態だったのです。それがこの前の臨時国会で突然成立した。不思議ですよね。その理由を読み解く鍵が私の手元にあります。『カジノ型リゾート』の誘致に早くも手を挙げている自治体のリストです。注目すべきは、東京都、横浜市、大阪市、和歌山市の4都市。勘の鋭い人ならもうお気づきでしょう。この4都市には、カジノ法案を強力に進めたであろう4人の政治家が絡んでいます」
東京都の場合は?
池田
「約20年前に“お台場カジノ構想”をブチ上げた石原慎太郎元都知事です。今となっては豊洲新市場の問題で“無責任な逃亡キャラ”が浸透しましたが、当時は人気も影響力も絶大でした。その時代から東京都庁の役人や都議会議員たちは、カジノに新しい天下り先や利権を求め続けてきた。彼らは今、心を躍らせているでしょう」
横浜市と大阪市は?
池田
「横浜は菅義偉官房長官の選挙区です。そして大阪市は、菅さんと密接な関係にある松井一郎大阪府知事(日本維新の会代表)の地元。菅さんは、憲法改正にもカジノにも消極的な公明党の代わりに、維新との連携を深め、二階俊博自民党幹事長に奪われ気味の影響力を奪還したい思惑も見えてきます。松井府知事は、橋下徹時代に維新が掲げていた“日本を根本的に改革する”という志を捨て、万博やカジノの誘致を最大の目標とする政治家に成り果てた」
最後の和歌山市は、都市の規模的に小さい気がしますが?
池田
「かなり違和感がありますよね。和歌山は、安倍政権の“ドン”となった二階幹事長の地元。それが答えです。二階さんはもともと旧運輸省の族議員です。そこに東日本大震災後、『国土強靭化計画』を主導したことで旧建設省にも絶大な恩を売り、国土交通省全体に君臨するドンになった。今度はカジノ法を巡る主管省庁の決定において主導的な役割を果たし、新たな巨大利権の根幹を握ろうと目論んでいるのは明らかでしょう」
権力が発生する“源泉”を目撃している気分だな~。
池田
「まさにそのとおりです。先月成立したカジノ法で決まったのは、『特定複合観光施設区域整備推進本部』と『カジノ管理委員会』と『事務局』という3組織を、1年以内をメドに立ち上げるということだけ。ここで重要な組織は、最後の事務局だけです。ほかはお飾りにすぎません。そしてこの事務局メンバーの人選を見れば、どこが主管省庁で誰が権力者になるのかが透けて見えてくるのです。しかしこの“本当に重要な情報”を、新聞は大きく報じないでしょう。霞ヶ関の各省庁は記者クラブに対し、意図的に“地味で無意味な情報”として伝えるからです。残念ながら日本の新聞記者たちに、巧妙に隠された重要情報を見分ける能力はない。だから私たちは、この巨大な利権構造が決まっていく過程を注視して、自らの目で気づく必要があるのです」
週刊プレイボーイ 2017年 No.3・4号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.65」より