税制が最終決定される「マルバツ会議」とは?
池田
「今週は税金に関するお話です。最近、お酒の税率や配偶者控除額の変更に関するニュースを耳にする機会が増えましたよね。私が今回話したいのは、とても民主主義国家とは思えない、日本の税制の決め方です」
どういうこと!?
池田
「税制改正のスタート地点は霞ヶ関です。まず、財務省は各省庁に、毎年8月31日までに税制改正の要望を提出するよう指示を出します。そして各省庁からの要望を財務省が査定する。表面的には、9月初旬から始まる『政府税調』と呼ばれる官僚OBや学者らで組織された税制調査会で議論されるのですが、このメンバーの人選を事実上、財務省がやっている。つまり、政府税調の結論は完全に出来レースなんです」
財務省がすべてを決めちゃってるってことかー。
池田
「税金は国民生活に直結する一大事なのに、選挙を経ていない、責任もとらない連中が決めている。さらに、作業をする時期もおかしい。8月31日までとか9月初旬とか、国会が開かれていない時期なんですよ。国会議員が地元に帰ったり外遊をしているときに、役人が勝手に税制という国家の骨格とも言える仕組みを作っている」
つくづく、日本は役人が動かしている国なんだなぁ……。
池田
「ちなみに翌年度の予算案も、8月31日までに各省庁が『概算要求』という形で出し、それを財務省がまとめます。政府を主語にすると、税金が収入で、予算は支出です。つまり、この国のお金はインもアウトも、役人たちが国会閉会中に決めてしまっているのです」
でも、最後の最後は国会議員が決めるんですよね?
池田
「形式上はそうですが、実質的には違います。財務省による税制改正案の査定がほぼ終わる頃に、今度は与党自民党の税制調査会が始まります。『党税調』と呼ばれるやつです。党税調で最も重要な会議が、通称『マルバツ』と呼ばれる審議です。自民党本部の9階にある最も大きな会議室で行なわれ、200~300人の国会議員が集結します。この会議では、『電話帳』と呼ばれる200ページくらいの分厚い資料が配られる。1ページにつき、税制改正案1件の資料になっている。つまり、200件ほどの改正案があり、それをみんなで『マル』『バツ』『保留』を決めるわけです」
最後は国会議員が決めているように聞こえけど?
池田
「国会議員自身もそう勘違いしています。しかし、財務省と自民党の執行部は、昔から手を握り合っているんです。だから財務省の意向に沿わない結論には至らない。党内から反対意見が多数出て揉めても、『それでは執行部に一任ということで』と、増税案を通してしまうのが常です。電話帳の表紙には、作成者が『自民党税制調査会』となっているのですが、これも大ウソ。作成から印刷、配布まで、すべて財務官僚が行なっている。つまり、国会議員が何百人集まろうとも、基本的には電話帳メニューの範囲内で議論をするだけ。実質的には役人がすべてを決めているのです」
マルバツ審議って、どんな雰囲気なの?
池田
「マルバツ審議は基本的に、国会議員と数人の党職員、財務官僚しか入室できません。しかし私は、あるときから例外的に入室を許可されました。数年にわたって私が目撃したマルバツ審議の実態はヒドイものでした。改正案が200件くらいあるので、進行役の税調会長は電話帳を1件1分ほどのハイペースでめくりながら議事を進めます。それに対し各議員たちが『賛成!!』と大声で挙手をする。逆に『反対!!』と異議を唱える権利は、なぜか議員ひとりにつき1度だけという慣例になっている。議題が200件もあるのに……。各省庁と財務省が“勝手に合意”した増税案をベースに、少しだけ政治的な要素を加えるだけ。悲しいですが、これがこの国の税金の決められ方なのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.52号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.63」より