Last updated 2018-03-23

“占い師”が国政を動かす隣国を笑えない日本の意思決定システム

責任の所在をうやむやにする有識者会議と審議会



池田
「今週は、小泉進次郎自民党農林部会長が苦戦中の農業改革に関するお話をしましょう。とはいえ、農業改革そのものではありません。私が取り上げたいのは、農業改革を主導している『規制改革推進会議』という、総理大臣が内閣府に設置した審議会についてです」

 審議会に問題があるの?

池田
「大アリです。審議会制度とは、いわゆる有識者会議の頂点に立つような存在で、政治と行政の“無責任体質”を象徴する制度です。豊洲新市場問題で東京都庁の“体質”が明らかになったように、役人たちによる重要な意思決定のプロセスと責任の所在を、意図的に不明瞭化させるためのシステムなのです」

 有識者会議には、財界人や学者、専門家らが集められる。正しい結論を出せないの?

池田
「有識者といっても政治に関しては素人です。その素人集団が国の命運を左右するような案件を議論する。しかも審議の平均時間は、2時間くらいの会議を10回程度やるだけ。さらにその議論の土台となる資料は、『事務局』と称する官僚側がすべて用意する。つまり、役所が望む結論に誘導されているわけです。そしてその政策が失敗した場合に備え、有識者が決めた体にして役人の責任を回避しているだけなのです」

 最悪な仕組みだ……。

池田
「この制度が日本を蝕み始めたのは、1996年、橋本龍太郎政権時代に設置された『行政改革会議』と『経済審議会』です。行政改革会議が目指したのは行政のスリム化だったのに、役人の数はまったく減らなかった。経済審議会が主導したのは『金融ビッグバン』でした。その結果は、皆さんご存知のとおり、世界屈指だった日本の金融経済を脆弱な地位にまで失墜させてしまった」

 ロクなもんじゃないな……。

池田
「小泉純一郎政権時に設置された『経済財政諮問会議』も最悪でした。労働者派遣制度の大幅な規制緩和により、終身雇用制が完全に崩壊。結果、ワーキングプア層が大量に発生した。さらに、税金を1円も使うことなく機能していた超優秀な郵便局制度も廃止してしまった」

 安倍政権ではどうなの?

池田
「安倍さんは2013年に『規制改革推進会議』という審議会を設置しました。この審議会が提言した農業改革案に対し、小泉進次郎氏が部会長を務める農林部会の議員たちが猛反発して揉めているのです。農業改革案の中身は、どう転んでも日本の農業に好影響は与えません。それよりも重要なのは、国の行く末を左右するようなテーマを、いったい誰が決めているのかという部分なのです」

 財界人や学者という政治の素人集団と、その背後から結論を誘導する役人たちか……

池田
「そう。しかも有識者の人選も役人がやるので、まさに役所の意のままです。国家の重要な意思決定を、選挙で選ばれたわけではない連中が行なっている。国の主権者は国民です。絶対に国民が選んだ政治家が決めなければならない。なのに、この国のほとんどすべての意思決定を、実質的に中央官庁や地方の役所の役人が行なっている。決して責任を追及されない人間たちによって、根本的な政策が決められているのです。民意なんて反映されるわけがない。お隣の国で“占い師”のおばちゃんが国政に関与して大騒ぎになっている不幸を、われわれは決して笑えない立場なのです」

 確かにそうかも……。

池田
「豊洲新市場問題の承認責任者は石原慎太郎元都知事です。愚かな審議会制度から出た案を最終的に採用したのは橋本龍太郎と小泉純一郎の両元首相でした。この3人の共通点は、国民からの人気が非常に高かったということ。小泉進次郎氏もまた、大変な人気者です。彼が旧態依然とした党内調整に終始するのか、真の政治家として審議会制度そのものに斬り込むのか、農協改革への取り組み方にぜひ注目してみてください」






週刊プレイボーイ 2016年 No.50号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.61」より

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