戦争に勝ち続けることで超大国になったアメリカ
池田
「今週は、ドナルド・トランプ新アメリカ大統領の誕生と、日米同盟の今後について話しましょう。テレビのニュースを見ていても、これからどうなっていくのか、今ひとつわからないのではないでしょうか?」
確かにそうかも……。
池田
「外務省がアメリカの現状を何ひとつ理解できていないのだから当然のことです。彼らは、トランプ氏が共和党の指名候補になることさえないと断言していたし、大統領候補に選ばれた後もまだ、ヒラリー・クリントン氏の勝利を盲信していた。日本政府の見解は外務省に100%依存しているし、テレビで解説をする人たちもまた、外務省で出世コースから落ちこぼれたOBなのですから」
どこにも正解がないわけだ。
池田
「外務省の出世コースは北米局、つまりアメリカ担当です。彼らはアメリカを熟知していると本気で信じています。だから平気で間違った分析に基づいた助言を首相や外相にしてしまう。外務省の存在そのものが、日本外交が昔から失敗を続ける諸悪の根源なのです」
無謀な戦争に突入したり、近隣諸国に敵ばかりの現況もまた、外務省のせいか……。
池田
「そのとおり。明治維新以降、外務省の情報や分析を基に行なった外交が、日本国民に利益や幸福をもたらした例など、ただの一度もありません。それは歴史を振り返れば誰の目にも明らかなことです」
アメリカは今後どうなる?
池田
「アメリカが世界一の超大国になれた理由はひとつ。戦争に勝ち続けたからです。第一次大戦と第二次大戦では、アメリカが中心となって勝利した。それが原因で、世界が羨むような圧倒的な豊かさが生まれたのです。逆に、戦争に負ければ没落してしまう。ケネディ大統領時代に本格介入したベトナム戦争に敗北すると、アメリカ国内は麻薬漬けのヒッピーたちで溢れかえり、治安が極端に悪化した。その後、レーガン大統領時代には旧ソ連などとの東西冷戦に完全勝利し、再び経済も治安も劇的に好転する。続く湾岸戦争でも勝利し、アメリカは全盛期を迎えたのです」
確かにそうかも!
池田
「しかし彼らは、2001年のアメリカ同時多発テロから始まった、いわゆる“対テロ戦争”に15年間も勝てずにいる。ベトナム人よりもはるかに少人数のテロ集団を根絶できないのです。だから国力の低下が止まらず、強くて豊かなアメリカの復活を熱望するアメリカ人が急増したのです。そんな基本的な流れさえも読めなかった無能な外務省に、情状酌量の余地などないと思います」
日米関係の今後は?
池田
「日米同盟が重要なのは当然です。しかし問題なのは、弱体化したアメリカがパートナーでは、今までのようにはいかないということです。その認識が日本政府には欠けている。弱ったアメリカとの同盟関係をより強化したければ、日本の防衛力を数倍に増強するしかない。さらに、アメリカのために日本の自衛官が多数死ぬことを受け入れる必要もあるのです」
う〜む……。
池田
「日本にとって最もお得な状態は、実は現状維持なのです。年間約2000億円の『思いやり予算』が高いなどと言う人がいますが、1完全に間違いです。日本政府には珍しく、無駄ではない税金の使い方だと言える。なぜなら、日本にアメリカ軍が駐留しているだけで、もし日本が攻撃されてもアメリカ兵の血とアメリカの兵器で反撃してくれるからです。もし仮に思いやり予算を今の10倍にあたる2兆円にしたところで、何の見返りもない社会保障費30兆円よりもよっぽどコストパフォーマンスが高い投資とも言える。しかし残念ながら、肝心のアメリカ側に今までの日米安保を維持するだけの実力がなくなってしまった。われわれ日本人は、既存の安全保障が崩壊しつつある今の現実を直視すべきなのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.49号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.60」より