死ぬほどカオスな国に派遣された自衛隊員……
池田
「新しいアメリカ大統領がトランプさんに決まりましたね。日本人にとって影響が大きいこのテーマは、次号以降にじっくり斬りたいと思います」
今週のテーマは何ですか?
池田
「アメリカ大統領選や韓国の不祥事、都政やTPPという話題に隠れている重要なテーマです。それは、アフリカ・南スーダンに派遣されている自衛隊の『駆けつけ警護』についてです。身近に感じない話でしょうが、是非知っておいて欲しい、われわれの生命と財産に重大な影響を与える問題だからです」
駆けつけ警護って?
池田
「PKO(国連平和維持活動)の一環で、自衛隊は内戦状態の南スーダンに派遣されている。駆けつけ警護とは、国連や各国部隊などから要請があった場合に救援することです。今月末に切れた派遣期限を延長した安倍政権は、駆けつけ警護の任務を新たに加えようと企んでいるのです」
延長しちゃダメなの?
池田
「自衛隊に認められている駆けつけ警護は、行動を縛る条件が世界の常識からかけ離れているのです。安全保障関連法によって、自衛隊は現地の国連職員などを警護する目的なら武器の使用が可能になったといわれていますが、『安全を確保してから対応できる』という条件つきなのです。南スーダンは、とてもじゃないけど安全の確保など不可能な内戦地域。そんな非現実的な条件下で、自衛隊員に駆けつけ警護という過酷な任務を課すこと自体が大問題なのです。」
南スーダンの治安状態はそんなに悪いんですか?
池田
「南スーダンは、5年前にスーダンから独立して以降、国とも呼べないほど不安定な状態が続いています。だから南スーダン政府は、国連に平和維持活動を要請した。現地には、多くの国連職員と、彼らを警護するための各国の軍隊が派遣されている。そんななか今年7月、国連職員が何者かから襲撃を受け、70名以上が死傷する事件が発生しました。しかもあろうことか、その襲撃者が国連にPKOを要請した側である南スーダン政府軍だったことが、先月末になって判明したのです。」
カオスだ……。
池田
「さらに、襲撃された国連職員たちから再三に渡る救援要請があったのに、各国のPKO部隊が応じなかったことも明らかになったのです。いかに危険な状態か解るでしょう。日本の自衛隊も直接的に関わる大事件なのに、日本のメディアが大きく報じなかったことは、なんらかの意図を感じてしまうほど不可解だといえます」
自衛隊はどうなっちゃうの?
池田
「現在、約700名の自衛隊員が派遣されています。もし彼らが救援活動に向かった場合、安保関連法では、敵から銃や大砲を向けられたとしても、実際に隊員が撃たれるまで攻撃ができないのです。つまり、ルール通りに安全を確保するなら、救援要請を黙殺して見殺しにするしかない。人道主義を優先すれば、確実に自衛隊員から死者が出る。その重大な判断が、なんと現地の部隊長に委ねられてしまっているのです」
それはダメなの?
池田
「自衛隊の最高指揮官は内閣総理大臣、つまり安倍首相です。安倍さんは常日頃から日本の安全保障の重要性を説いている。国連のPKOは単純な軍事行動ではなく、高度な政治判断が要求される国際政治なのです。でも実際には、異国においてかなり高い確率で死ぬかもしれない隊員を出動させるか否か、最高指揮官ではなく、一介の部隊長の判断させる仕組みになってしまっているのです」
そりゃダメかも……。
池田
「仮に南スーダンの平和を守ることが日本にとって大きな国益につながるなら、まだ理解もできる。でも、無政府状態の国家から得る利益などありません。そんな地で、日本国民である自衛隊員が死ぬかもしれないリスクを冒させるなど、正気の沙汰とは思えません」
週刊プレイボーイ 2016年 No.48号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.59」より