フィリピンが反米に傾くのは自然な流れ
池田
「今週は、フィリピンのドゥテルテ大統領への対応から、日本の外交がいかにお粗末であるかを説明します。日本政府は『東アジア地域におけるアメリカの重要性を確認できた』だの、『安倍首相とドゥテルテ氏との間に人間関係を築けた』などと、一定の外交成果をアピールしていますが、実際にはその逆です。外務省は無能の極みであると言わざるをえない」
どこがダメだったの?
池田
「全部です。ドゥテルテさんはおそらく、『日本の首脳陣はなんて頭のヌルい奴らなんだ』と呆れたことでしょう。フィリピンはアメリカの旧植民地で、独立後も、政治、経済、軍事、移民など、あらゆる分野でアメリカと深い関係が継続しています。日本よりもよっぽど“アメリカ通”なんです。日本からアメリカの重要性を説かれる筋合いなんてないんです」
でも、ドゥテルテさんはアメリカに反抗的ですよね?
池田
「そう。その事情を理解した上で対応を考えるのが外務省の仕事ですが、彼らはまったく理解できていない。フィリピンからすれば、同盟国であるアメリカが中国に対して断固とした行動をとらないから困っているわけです。だからドゥテルテさんは自国を守るため、仕方なく中国に接近している。アジアを不安定化させている張本人であるアメリカを『重要視しろ』と上から目線で言われても、たわけた綺麗ごとにしか感じられなかったことでしょう」
日本の外交はどう対応するべきだったの?
池田
「フィリピンから見れば、自分たちと同じくアメリカの庇護国である日本こそ、共に対中国の安全保障問題を真剣に話し合うべきだと思っていたはずです。従来通りにアメリカ依存なのか、日本との連携を強化して独自路線を模索するのか。フィリピン国民の強い反米感情からすれば、ドゥテルテさんがアメリカに頼りきりの状態から脱したいと考えるのは、指導者として自然なことなのです」
なんでフィリピン国民はそんなに反米なの?
池田
「アメリカは世界一豊かな国なのに、同盟国として巨額の経済援助をしてくれるわけでもない。南シナ海のフィリピン領を守るとも言ってくれない。挙げ句の果てに、アメリカは麻薬撲滅など夢のまた夢のような状態のくせに、実際に劇的な効果を挙げたドゥテルテさんの麻薬取り締まり法にイチャモンをつけてきた。嫌いになって当然です。ここらへんも日本の外務省は理解していないんです」
なるほどー。
池田
「ドゥテルテさんにとって、麻薬を中心とした犯罪撲滅キャンペーンは政策の根幹です。7期も務めたダバオ市長時代には、最悪の犯罪シティだったのを東南アジアで最も平和な街だと誇れるほど安全にした。経済も劇的に発展させた。その功績をフィリピン国民が評価し、支持しているのです。それなのに安倍首相は、その功績を支持することも非難することもなかった。日本は口では友好関係を築こうと言っているけど、自分のことをどう思っているかもよくわからないわけです。これでは相手に敬意を払った対応とは言えないし、そんな状態でアメリカの重要性とか素人みたいなことを説かれても、心に響くはずがないんです」
外務省って、本当にダメな組織なんだなあ……。
池田
「約100年前、日本は当時世界最強だったイギリスを唯一の同盟相手にしていました。そして当時の外務省は、近隣に友好国がひとつもないことに注意を払っていなかった。そしてイギリスと手が切れた途端、日本は戦争に突っ走り、転落していった。そのおかげで日本国民は100年が経とうとしている今でも大きなツケを払わされ続けている。戦後の外務省はアメリカ一辺倒の外交姿勢で当時とまったく同じ状況です。彼らは今も昔も寸分違わぬダメ外交を展開し、日本を危機に陥れようとしているのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.47号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.58」より