比例単独当選の議員は永田町で蔑視されている
池田
「今週は、現在行なわれている衆議院の補欠選挙について解説しましょう。意外に思われるかも知れませんが、衆院の補欠選挙ほど“おいしい”選挙はありません。特に今回の場合、来年早々に解散・総選挙も予測されている。つまり、補選で当選しても、すぐにまた選挙になるかも知れないのです」
それのどこがおいしいの?
池田
「補選は前任者が死去したり辞職した場合に行なわれるので、通常の選挙とは事情が異なります。今回は福岡6区と東京10区で補選が行なわれる。福岡の場合、鳩山邦夫さんが亡くなったことによるもので、邦夫氏の次男である鳩山二郎氏が出馬した。これは“弔い合戦”という大義名分が成立し、圧倒的に有利な選挙戦になる。東京の場合は衆院議員から都知事に鞍替えした小池百合子さんの後継者を選ぶ選挙です。今の情勢を考えると、小池さんが指名した若狭勝氏が負けるはずがない。通常選挙と違い、補選は“特別な事情”のせいで行なわれるため、最初から勝敗が決している場合がほとんどなのです」
補選が楽勝でも、すぐに総選挙っては大変でしょう?
池田
「普通はそう考えますよね。でも、実際は逆です。若狭氏の例で解説しましょう。彼はもともと、2014年の衆院選で自民党の東京ブロックの比例名簿順位27位という下位の候補でした。自民党の圧勝でギリギリ当選できた人です。そしてここからが重要なのですが、永田町では、選挙区を持たずに比例単独で当選した人を『議席を持つ議員』にカウントしません。本会議や委員会の採決で必要な『票数』としてのみ扱われる。さらに霞ヶ関の官僚からも、まともな政治家としては扱われないのが現実です」
そりゃ知らなかった!
池田
「比例単独のままでは、いくら当選回数を重ねても出世できません。特に当落ラインすれすれだった若狭氏に明るい未来はない。そんな状況下で突然、小池さんが築き上げた後援会組織や支援団体もセットでついてくるという破格の条件で補選を戦え、ほぼ確実に自分の選挙区を持つことができるのです。若狭氏は現職の衆院議員なのに、わざわざリスクを冒して辞職し、小選挙区に鞍替えしてまで小池さんのために勝負した印象を持ってしまいがちですが、事実はその逆。最高にラッキーな状況でウハウハなのです」
なるほど。
池田
「もし来年早々に解散・総選挙があれば、たった4ヶ月程度で2回も当選できることになる。若狭氏の場合、約2年前に比例単独で労せず初当選してるので、たった2年強で『当選3回の議員』になれてしまう。こんなに短期間で飛び級の出世ができることこそ、補選で当選する最大のおいしさなのです」
池田氏も、補選への出馬を打診された過去があるそうだ。
池田
「私が仕えていた松岡利勝さんが、現職の農林水産大臣だったときに急逝されました。当時、私は筆頭の秘書であり、公職の大臣秘書官でもありました。松岡さんのご遺族に出馬の意思がなかったため、自民党幹部や所属派閥の親分だった伊吹文明(元衆院議長)さんらから、補選への出馬を強く勧められました。第1次安倍政権のときでしたから、素直に出馬していれば現時点ですでに当選4回。もし来年に総選挙があれば当選5回。つまり、わずか10年で大臣にもなれる当選回数に達していたことになりますね」
なんで出馬しなかったの!?
池田
「なんででしょうね……。補選への出馬を断る度に、伊吹さんから『君はバカなのか!?』と言われました(笑)。しかし松岡さんの地盤を引き継ぐことは、農業団体や自民党や省庁など、旧態依前とした組織や利権を守ることを意味していました。それを良しとしなかった当時の私は、既得権益にまみれた議席を獲得するより、権力や利権構造の真実を世間に伝え、政治を斬る道を歩もうと決めたのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.44号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.55」より