予算の使い道を無限に広げる魔法のキーワード
池田
「安倍内閣は総額28兆円という大型の経済対策を打ち出しました。9月26日から始まる予定の臨時国会では、そのための補正予算が審議されます。しかしその内容は、非常にインチキ臭いうえ、経済効果もほとんど期待できないでしょう」
どうして!?
池田
「この28兆円、実は数兆円ずつ、数年に分けて実施されるんです。安倍内閣が3年前に20兆円の経済対策をした際は、単年度で一気に行なったのに経済成長率が2%止まりだった。その当時でさえ景気上昇の実感は薄かったのに、1年あたり数兆円の規模でどれだけの効果が期待できるのか……。さらに28兆円には、企業への融資枠なども含まれている。それ自体には問題ありませんが、来年の景気に影響が見込めるような即効性はないのです」
企業への融資枠って?
池田
「例えば、JR東海がリニアを整備するために5兆円を貸し付けるお金があるのですが、この融資によって経済効果が得られるのはいつなんだということ。東京―名古屋間が開通予定の11年後以降も、名古屋―大阪間の工事は続く。完成予定は20年か30年後です。運行利益が発生して借金を完済し、JR東海が税金をたくさん納めるようになるまで何十年かかるのか?未来に投資することは問題はない。ただ、景気刺激を狙った経済対策としてアピールするのは、明らかにペテン行為です」
効果が期待できる対策は?
池田
「効果があるかは別として、実際に現金が動く部分を、一応経済対策と呼びましょう。報道などで『真水』と呼ばれる部分です。総額28兆円のうち、6兆2000億円が国費負担分の真水。複数年に分けて支出されるので、今回の補正予算で対象となるのは約4兆円強。そのうち2兆7500億円は建設国債で賄われる。これには『また公共事業依存か』と批判する人もいるでしょうが、インフラの整備は確実に一定の経済効果が期待できます。費用対効果の観点では、毎年30兆円以上も注ぎ込まれる社会保障費のほうが、砂場に水を撒くようなものでよっぽど無駄使いだといえる。問題は、残りの部分の使い方です」
どんなふうに?
池田
「まず、『1億総活躍社会の実現と加速』という予算が7100億円もある。ようするに老人も子供も子育て中の母親も、今働いていない国民を全員働かせて税収を増やしたいってこと。しかしそのために、なぜか不動産流通やリフォームの業界にお金を投入するというのです。意味がまったくわかりません。
続いて『英国のEU離脱に伴う不安定性などのリスクへの対応並びに中小企業・小規模事業者及び地方の支援』に4300億円。シンプルに『中小企業支援』と書けばいいものを、『英国』とか『地方』とか、余計な文言をつけている。この意図は、困っている中小企業を支援したいのではなく、なんにでも使えちゃうように使途を幅広くしたいってこと。いかにも財務省らしいインチキ行為です。
『熊本地震や東日本大震災からの復興や安全・安心、防災対応の強化』という1兆4300億円以上もの予算も『復興』に『防災対応の強化』という言葉を加えて、“国土強靭化利権”に使えるようにした」
ヒデーなぁ……。
池田
「これらの財源も大問題です。まず、平均株価への悪影響も考えず政府所有のNTT株を1200億円分も売却。さらに熊本地震の復旧のためにストックしておいた『予備費』から4100億円、昨年度予算の『余剰金』から2500億円、国債の償還や利払いのための『国債費』から4100億円も流用。国債費はもちろん、余剰金も、本来は借金の返済に充てるべきお金です。安倍首相は、アベノミクスの失敗をゴマかし、政権の支持率を維持するという極めて個人的な目的達成のために、国の将来を犠牲にした税金の使い方をしようとしているのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.39・40合併号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.51」より