中国の膨張政策に対抗する意味でも対露関係は重要だ
池田
「今週は、日露関係についてお話ししましょう。
この週末にロシアのウラジオストクで行なわれる『東方経済フォーラム』という国際会議で、安倍首相とロシアのプーチン大統領の会談が実現するからです。
おそらく日本はその席上でプーチン大統領の訪日を要請するでしょうが、実現は難しいでしょうね」
どうして?
池田
「安倍首相は2年ほど前から、いろいろな国際会議の合間に行なわれた日露首脳会談のたびに、何度も訪日を持ちかけてきました。
しかし一度も実現できていない。
その原因は、日本の外務省が徹底的に無能であることと、その外務省の報告を鵜呑みにしてしまう、安倍首相の外交センスのなさにあります」
外務省のダメっぷりは以前から何度も指摘していますね。
池田
「外務省が日本の国益に沿った外交を行なったことは、ただの一度もない。
これは大袈裟な表現ではありません。
首相が他国の元首に訪日を持ちかける場合、外務省が水面下で事前交渉をして、確実に相手国が受諾するという感触を得てから要請をします。
首相が要請したのに断られるなど、外交上、赤っ恥以外の何ものでもないからです。
しかし外務省は、安倍さんに恥をかかせ続けている」
なんで安倍首相は、頼りない外務省からの情報を鵜呑みにしちゃうの?
池田
「あまりにも外交センスがないからです。
日本がロシアに押し付けようとしていることは、日露平和条約の締結に向けて、北方領土返還の道筋をつけたいというものです。
何十年も前から繰り返しては実現できていない交渉です。
しかも安倍首相は個人的な目的として、地元の山口県にプーチンさんを呼びたがっている。
あまりにも能天気だと言えます。
少しでも相手の立場になって考えてみれば簡単にわかることですが、プーチン大統領にとって、訪日は何のメリットもありません」
どうすれば良かったの?
池田
「2年前のクリミア半島への武力侵攻以来、ロシアは欧米の主要国から非難され、経済制裁を受けています。
さらにシリア情勢やイスラム国への対応なども複雑に絡み合い、ロシアはサミットにも呼ばれない状況が続いている。
この状況を考えると、5月に行なわれた伊勢志摩サミットで、安倍首相はプーチン大統領を招待するべきでした。
サミットの議長国はレギュラー国以外から招待国を選ぶ権利があるからです。
もしアメリカなどから猛反対を受けて実現できなかったとしても、他国からの批判を覚悟でロシアを招待しようとしたことに、プーチン大統領は心から感謝したはずです」
そうかも!
池田
「ロシアにとって、今回の東方経済フォーラムは非常に重要な位置づけです。
アメリカと西欧から経済制裁を受けている状況下にあって、ロシアは極東地域の経済振興を何よりも望んでいるからです。
実際、中国や韓国は、今回の会議で極東地域への本格的な投資交渉をまとめる予定です。
それなのに安倍首相は、率先して対ロシア経済制裁に参加して、大した投資もせず、でもプーチンさんには山口県に来てもらい、北方領土を返すと言って欲しいと望んでいる。
正気の沙汰とは思えませんよ。
ロシア側にメリットが何ひとつないじゃないですか」
確かに……。
池田
「今の日本にとって、対露関係は日米関係と同じくらいに重要です。
現在アメリカはどんどん弱体化しており、かつてのように“世界の警察官”ではいられなくなっている。
だから日米関係だけを強化しても日本の安全は保障されません。
中国の膨張政策をけん制する意味でも、対露関係は本当に重要です。
中国を、北からはロシアと、南洋からはアメリカと協力して抑えないと、日本は危ない。
安倍首相は、誰よりも先にロシアへの経済制裁を解除するくらいの思い切った外交を展開して、この国も安全を守るべきなのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.37号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.49」より