「官邸主導人事」のあきれた内幕とは?
池田
「今回は、今週にも行なわれる予定の内閣改造人事の解説をしたいと思います。
このコラムが読まれているときには新東京都知事が決まり、その動向ばかりが報道されていることでしょう。
しかし、日本人全体に与える影響でいえば、内閣改造のほうが断然大きいからです」
でも、安定軌道に乗った安倍政権は、特に思い切った人事をやらないんじゃないの?
池田
「今回注目したいのは人事の内容ではなく、人事の決定プロセスです。
今も昔も、内閣改造の噂が流れ始めると、そわそわと落ち着かなくなる議員がいます。
当選5、6回(衆院の場合)の“大臣待機組”と呼ばれる人たちです。
かつては首相と派閥の親分たちが話し合って人事を決めていたので、派閥の親分に気に入られるか否かが重要だった。
だから大臣待機組議員のなかには、派閥の親分のご機嫌をとるために一日中ついて回る露骨な人も珍しくなかった。
しかし小泉政権以降、派閥の影響力が著しく減退した。
現在は首相が単独で決定する官邸主導人事が定着してきました」
それの何が問題なの?
池田
「本当に首相が決めているのか否かが問題なのです。
その答えは、イエスでもあり、ノーでもある。
もちろん最終的な決定をするのは首相ですが、決断のための判断材料は霞ヶ関の省庁が提供しているのです」
政治家の人事を決めるための判断材料を、なんで霞ヶ関が?
池田
「第一に、政治家は政治家同士で評価し合うことに不向きだからです。
同じ党に所属する議員同士は仲間でもある反面、政敵でもあるからです。
当選回数が同じくらいの議員に人物評を聞いても、それが正しい評価なのか、ライバルを蹴落とすための評価なのかわからない。
好き嫌いで選んでしまうと、嫉妬や怒り、恨みを買う原因になる」
なるほどー。
池田
「また、どの議員がどの分野の政策に精通しているのか、首相にもなると、大臣候補者たちと”格”が離れすぎていてよくわからない。
各ジャンルの政策を議論する場は、党内の各部会です。
小泉進次郎氏が農林部会の部会長をやっていますよね。
部会には、主に当選1回から4回くらいまでの議員が参加します。
つまり、首相と大臣候補者たちとは当選回数に開きがあるため、同じ時期の部会に居合わせていないのです」
だから霞ヶ関官僚が客観的な評価を報告するわけかー。
池田
「そのとおり。
各部会に関連する省庁の官僚は、常にすべての部会に出席している。
だから彼らは、全政治家の若手議員時代から大臣候補になるまでの情報を握っているのです。
ここで問題なのは、霞ヶ関が官邸に提供する人物評が果たして本当に客観的なのかということ。
その実態は、客観的な“体”を保ちながらも、自分たちにとって都合のいいフィルターをかけた報告になっているのです」
実質的に官僚が閣僚人事に介入しているってことか!
池田
「彼らは決してウソの報告をするわけではありません。
自分たちに都合がいい議員はいい面を強調し、悪い面は報告しない。
逆の場合、悪い面を報告し、いい面はスルーする。
そうやって巧みに誘導するのです。そして、最終的な意思決定の場にも事務方の官房副長官という役人が同席しています」
事務方の官房副長官って?
池田
「官房副長官には、政務と事務とがいます。
政務とは、衆参からひとりずつ、基本的に小物の国会議員が選ばれます。
一方の事務方の官房副長官とは、各省庁のトップである事務次官経験者か、それに相当する超大物の官僚が就く。
そして、閣僚人事が話し合われる場に居合わせる面子は、首相、官房長官、事務方の官房副長官であるケースがほとんどなのです。
つまり、国家の最高人事を決定する場に、選挙を経ていない役人が加わっているわけです」
この国の実質的権力がどこにあるのか、透けて見えるな~。
週刊プレイボーイ 2016年 No.33号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.46」より