参院選の投票率は決して低くなかった
池田
「参院選が終わり、国内の政治報道は都知事選一色でしょう。
参院選の関心度や投票率が低かったという報道が多かったですが、本当にそうなのでしょうか?
今回の参院選の投票率は54.7%で、大手新聞などのメディアはこぞって『戦後4番目に低い数字』だと強調した。
しかし、2000年以降に行なわれた5度の参院選の平均投票率は56.4%でした。
最近の平均値よりもたった1.7%低かっただけで、国民の関心が低かったと本当に言えるのでしょうか?」
確かにそうだな。
池田
「視点を変えてみましょう。
大手メディアが“世間の一大関心事”だと決め付けて報道している都知事選は、果たしてそんなに国民の関心が高いのかと。
過去の都知事選の投票率を見てみましょう。
2012年に、史上初の衆院総選挙とダブル選になって異常な投票率(62.6%)となったのを除けば、2000年以降の平均値は50.8%にすぎません」
参院選よりも低い数値だ!
池田
「そうです。
つまり、今回の参院選は、盛り上がらなかった印象の割には投票率が高かったのです。
政治側からも大手メディア側からも明確な争点が示されなかったにも関わらず、国民の関心、言い換えれば危機感が強く、投票行動に結びついたと考えるのが妥当なのです」
なるほどー。でも、今回の参院選の争点は、憲法改正の発議に必要な3分の2以上の議席を「改憲勢力」が獲得できるかどうかだったんじゃないの?
池田
「多くの国民にとって、そうだったのでしょう。だから予想以上の投票率になった。
ここで重要なのは、選挙前に大手メディアがどれだけ改憲を争点化しようと努力したのか、です。
本来、新聞記者たちは、改憲に関する質問を政治家たちに連日ぶつけまくる必要があった。
また、その質問に政治家がどう答えようが、世論を二分するような議論になるよう、徹底的に盛り上げるべきだった。
そうじゃないと、国民は何が本当に重要な争点なのかがわからないままに決断をするハメになり、間違った投票行動、あるいは棄権をする危険性が増すからです」
確かに!
池田
「彼らは、舛添要一前都知事の政治とカネの問題に関しては徹底したしつこさで報道しまくったのに、憲法改正という、国民全体にとって本当に重大なテーマを軽視したのです。
挙句の果てに、投開票日翌日の全国紙の朝刊一面は、全紙が憲法改正に必要な議席数である『3分の2』というワードを並べたて、自公政権による『改憲隠し』だと批判した。
とんでもない話です。
選挙前の憲法に関する記事を意図的に少なくして争点を隠したのは、ほかの誰でもない、大手メディア自身なのです」
彼らは何で改憲という争点を軽く扱ったんだろう?
池田
「国民よりも権力にすり寄ることを優先したからです。
だから選挙前は安倍政権がイヤがるような報道は控え、姑息なことに参院選が終わった途端に一瞬だけ改憲の可能性を煽ったものの、すぐに報道の軸足を都知事選にシフトした。
国民全体の未来に関わる重大なテーマを軽視して、首都とはいえ、日本全体の約1割の人口にすぎない東京都の話を重要視するなんて、残り9割の日本人をバカにしているとしか思えません」
都知事選は地方選だもんな。
池田
「最も重要な事実は、政治とメディアがこれだけ参院選を盛り上げなかったのにもかかわらず、54.7%もの人が投票したことです。
これは、国民の多くが今回の選挙の重要性を自発的に理解して行動した証拠。
憲法改正も明確に意識した上で投票したのです。
『改憲隠し』などと、いかにも安倍政権が改憲という争点を隠したことで、有権者がダマされて自民に投票してしまったみたいな論調になっていますが、大間違いです。
多くの国民はお見通しだった。
それを書いている新聞記者自身が、国民をバカにしているのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.31号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.44」より