巨大官庁の事務次官を待つバラ色の天下り人生とは
池田
「参議院選挙も終わり、世間の関心は東京都知事選へとシフトしていきます。
自民党が誰を擁立するのか、最後までドタバタしましたね。
特に私が気になったのは、桜井俊前総務省事務次官の名前がたびたび挙がったことです。
彼の名前が最初に出た瞬間から、実現しないだろうなと確信していました」
嵐の櫻井翔君のパパですね。なんで実現不可能だったの?
池田
「猪瀬直樹元都知事、舛添要一前知事と、たて続けに政治とカネの問題が起きたのだから、とにかくカネにキレイな人を選びたい。
最近まで公務員だった桜井氏にカネの心配はないので、一見素晴らしい人選にも見えます。
ただ、選ぶ側の連中が霞が関官僚の本質をわかっていない。
総務省という巨大な役所のトップにまで登りつめた人にとって、都知事なんてリスクにしか感じられないのです」
どういうこと?
池田
「総務省は、旧自治省と旧郵政省、旧総務庁が合体してできた巨大官庁です。
利権の種類も規模も超ド級。
天下り先も一流どころがズラリです。
同じく候補に名前が挙がる増田寛也前岩手県知事も建設省(現国土交通省)出身ですが、最終役職は課長補佐級。
桜井氏とは、“格”が月とスッポンでは表現が足りないくらい違うのです」
そんなに違うの!?
池田
「驚くかも知れませんが、霞が関の主要官庁の課長級は、一部上場企業の社長と同格なのです。
局長ともなると、世界的な大企業の社長と同格。
それが事務次官、しかも総務省という巨大官庁のトップともなると、国内に比較できる対象が見当たらないほどのレベルなのです。
そんな超ド級のスーパー役人が、今回のような火中の栗を拾わされるかも知れないタイミングで都知事選に出馬するなんて絶対にありえないのです」
では、桜井さんにはこれからバラ色の天下りライフが?
池田
「事務次官級のOBが行くような天下り先での待遇は、まさに豪華絢爛です。
理事長室や役員室などの個室に、専属秘書もつく。
運転手つきの黒塗り専用車もつくし、食事や移動に仕える経費の枠が200万円くらいある。
年収や退職金は組織によってさまざまですが、3年から5年くらい勤めて辞めるサイクルを3、4回繰り返し、10年から15年で5億円ほど稼げる。立派な億万長者です」
スゲ~っ!!
池田
「そんな人を知事選に担ぎ出したいなら、絶対に入念な根回しが必要です。
まずは役所に内々で打診する。
すると役所側から“ふわっとしたリアクション”が返ってきます。
はっきりとした返答ではなく、役人特有のわかりにくい”反応”なのです。
だから担ぎ出す側は、その返答の真意を正確に読解する必要がある。
もし肯定的なら、この時点で初めて本人の意思を確認するのが正しい順序なのです。
出馬の打診を受けた本人が何よりも気にするのは、役所内でのコンセンサスだからです」
今回の桜井氏擁立騒動では、根回しの形跡が見られないと。
池田
「はい。それどころか、最悪の手順でした。
事前に根回しをするどころか、世間からの反応を見つつ桜井氏をその気にさせる目論見で、先に情報をリークしてしまった。
今回の状況における最低の手法だと言えます。
都知事選の候補者を最初に選定するのは自民党の東京都連。
その幹部は衆議院議員の石原伸晃氏や萩生田光一氏らです。
彼らの政治センスは、疑いようもなく最低レベルですね」
お粗末な舞台裏だなあ。
池田
「彼らが桜井氏を担ぎたかった気持ちはよくわかります。
政治とカネの心配がなく、行政経験は豊富。
国民的な人気アイドルの父親だから知名度の問題もクリア。
そして何より、政治には素人だから、彼ら(自民党の都連幹部)がコントロールしやすい。条件は最高です。
しかし、政治センスも知識もないから、役所と役人の基本性質を知らなすぎたのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.30号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』vol.43」より