金正恩政権の「暴発」は十分にあり得ることだ!
池田
「3月21日、北朝鮮は5発の新型ロケット砲を日本海に向けて発射しました。しかし、日本政府や報道機関からはまったく危機感が感じられません」
北朝鮮の挑発行為には日本中が慣れきっていますからね。
池田
「その感覚が危険なんですよ。みんな北朝鮮を小バカにして油断していますが、彼らは3月だけでも、中距離弾道ミサイルも含め、4度に渡り計15発もの発射実験を強行している。これは完全に異常事態です。そろそろ私たちは、今の朝鮮半島情勢が日本人の命と暮らしに直結する深刻な危機状態にあるという認識を持つべきです」
そんな切迫した状況なの!?
池田
「もちろん、圧倒的な軍事力を有するアメリカを相手に、北朝鮮が正面切って戦争を仕掛けるなど普通はありえない。でも、追い込まれて暴発する可能性は決して低くないのです」
金正恩政権は、どれくらい追い込まれているのか?
池田
「彼らの立場になって考えてみましょう。核問題で、国連安保理の常任理事国は、自衛目的の数量をはるかに超える核兵器を保有しているのに許されている。イスラエルやインド、パキスタンも、後発の核保有国なのに弾圧を受けていない。北朝鮮からすれば、自分たちだけが非難され、経済制裁を受けていると思って当然です。
さらに、共産主義思想や世襲の国家体制、国民の貧しさなど、自国の存在すべてが世界中から非難されている。しかも、唯一の頼りだった中国さえ、最近はアメリカを気遣ってかスタンスが曖昧になっている。北朝鮮は、自分たちは世界中からイジメられていると、圧倒的な孤立感を感じている状況なのです」
自暴自棄になって暴発する危険性は十分にあると……。
池田
「先に行なわれた米韓軍事演習では、金正恩個人を殺害することを想定した演習まであった。現実に国のトップの命が危機にさらされているのです。北朝鮮は臨戦態勢にあると思ったほうがいい」
もし暴発しても、多くの日本人はアメリカや中国が対処してくれると考えていますが。
池田
「断言しますが、今のアメリカに北朝鮮の暴発を鎮圧する余力はない。北朝鮮の背後から必ず中国が出てくるからです。つまり、アメリカに中国と戦う余力がないということです。
なぜ中国が出てくるのか?
池田
「それは、もし北朝鮮が米韓連合軍に制圧されることになれば、国境線が38度線から現在の中朝国境である鴨緑江ラインになってしまうからです。北朝鮮というクッションがなくなり、米韓連合体制と直接にらみ合う事態は、中国にとって悪夢以外のなにものでもありません。中国にとっては金王朝がどうなろうと構わない。しかし米韓連合軍と国境を接することは絶対にイヤなんです。もし金王朝が崩壊すれば、傀儡政権を樹立してでも北朝鮮を守るでしょう。
一方のアメリカも、イラク、アフガニスタン、シリアなど、10年以上も世界各地でテロリストと戦ってきたが、決定的な勝利を収めることができていない。そんなアメリカが、今の強大な中国と戦えるわけがない」
なら米中開戦には至らないで済むと。ひと安心です。
池田
「大事なのはそこではありません。日本人が覚悟しないといけないのは、北朝鮮問題に関して、アメリカも中国も頼りにならないということです。しかも、北朝鮮と韓国はあくまで休戦しているだけで、戦争状態は継続中なんです。北朝鮮がもし暴発すれば、朝鮮戦争再開となる。そしてその戦禍が日本に及ぶ危険性は非常に高い。韓国と軍事同盟を組むアメリカはもちろん、米軍基地がある日本だって、北朝鮮や中国からすれば敵国です。ミサイルだけじゃなく、彼らは高度なサイバー攻撃を仕掛ける能力も、テロ攻撃を遂行する実力も持っている。日本人は、いつ自分たちが攻撃されてもおかしくないという危機感をいいかげん持つべきなのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.15号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 vol.29」より