国家を大危機に陥れても出世しちゃう官僚たち……
不手際が止まらない新国立競技場問題。今度は、聖火台の場所が決まっていないという、意味不明な事態に陥っている。
池田
「競技場の建設と運営の主体であるJSC(日本スポーツ振興センター)は、聖火台はオリンピックに関する部分で、それはオリンピック組織委員会の管轄だと責任をなすりつけた。オリンピック組織委員会会長の森喜朗元首相は、悪いのは文部科学大臣だと言う。遠藤利明五輪担当相にいたっては、ザハ案の時に議論した気がしたけど忘れていたと、およそ大臣とは思えないような弁解をしています」
低レベルなやり取りだ……。
池田
「これ、日本が大昔から抱える構造的な欠陥なんです。重要なことをすべて役人が決め、国家的な大失態が発生したら政治家に責任を取らせる。だから本当の責任の所在がわからず、結局うやむやになるんです。このままでは、永久に根本的な解決はできません」
過去の具体例を挙げると?
池田
「事例は無数にあります。日本の役人支配と無責任体質が昔から変わっていないことがわかるよう、古い例と新しい例を挙げてみましょう。
日露戦争の開戦前、陸軍省の砲兵課長は、1日あたり約360発の砲弾が必要だとする報告を上げ、事務次官も大臣もそれを了承しました。しかし実際に開戦してみると、『奉天の戦い』では1日に約8万発もの砲弾が使用されたのです。当初の目論見とは、実に200倍以上のズレがあったのです。
慌てた陸軍省は、開戦後に日本中の工場をフル稼働させ、輸入もして、なんとか乗り切った。しかしこの砲兵課長、日本を存亡の危機に陥れるミスを犯したのに、責任をとるどころか、その後に大出世したのです」
最近の例だと?
池田
「消費税でしょうか。大蔵省(現財務省)は当初、法人税や所得税などの直接税の税率を緩和するため、間接税である消費税を導入しようと説明していた。しかし、その後の不景気で税収が減り、法人税も所得税も下がらなかった。
さらに、財務省は自らの過失をうやむやにするため、消費税を社会保障費に充てる税だと方針転換をする。現在、社会保障費は年間で30兆円以上です。赤字国債発行額を除けば、日本の税収はだいたい40数兆円。法外な社会保障費を減らす努力をしなければ、とても消費税だけで追いつくものじゃない」
消費税の失敗についても、誰も責任をとっていないの?
池田
「そのとおり。景気は予測できなくても、人口構成比から見て少子高齢化の加速は100%確実でした。しかし、財務省は消費税を導入しておきながら社会保障費の増大は放置し、財政赤字を大幅に膨張させた。それなのに財務官僚たちは全員出世して、最高の天下り先へと散って行った。当然、厚生労働省の官僚も同様です。
むしろ、デフレスパイラルで日本経済がマイナス成長を続けていたときも、霞が関は概算要求額を増額し続け、毎年のように『史上最高額』を勝ち取っているのです!」
東京オリンピックの関連組織にも、責任を取らずに出世した代表格的な元官僚がいる。
池田
「武藤敏郎オリンピック組織委員会事務総長です。彼は消費税導入に深く関わり、大蔵省と財務省で事務次官に登りつめた。退官後は日本銀行の副総裁に就き、現在に至ります。
武藤氏は、五輪エンブレムのパクリ問題について、『専門家が関与し、責任を分担して結果を出す。組織として誰かが責任を取るという議論はわかるが、どこの誰に責任があるのかという議論はすべきではない』と会見で述べている。わかりにくい言い回しですが、発言のママです。責任の所在を明確にせず、誰が悪いのかをうやむやにして、失敗をしても誰も責任をとらずに済む仕組みを守るための、“ザ・官僚”的な発言なのです。決して騙されてはいけません!!」
週刊プレイボーイ 2016年 No.13号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 vol.27」より