今の日本は中国と戦う実力も気概もない……
1月16日、台湾で総統選挙が行なわれた。結果は、親日的な民進党(民主進歩党)の蔡英文氏が、親中国の国民党候補者を退けて圧勝。この結果を受け、日本の政府も新聞報道も歓迎ムード一色だが――。
池田
「私も個人的には嬉しい気持ちですが、日本の外交や安全保障の観点から見ると、何ひとつ有り難くない事態です」
どういうこと?
池田
「今後、台湾の独立機運が急激に高まれば、東シナ海の情勢は一気に緊迫する。その流れのなか、日本の要人が台湾を後押しするような発言をすると、一触即発の緊張状態に巻き込まれる危険性が高まるのです」
でも、台湾経済は中国への依存度が高いので、中国とやり合うシナリオは現実的じゃないとの分析が一般的だけど?
池田
「それは、何もわかっていない政治家や新聞記者、評論家の戯言でしかありません。
例えば、経済が完全にアメリカ依存のカナダだって、独立を維持していますよね? 政治と経済は密接な関係ですが、絶対に連動するわけではない」
じゃあ、日本は余計な口出しをしなければいいの?
池田
「そうなんですが、すでに岸田外相が間違ったメッセージを発信してしまいました」
台湾総統選挙の結果を受けて発表した、岸田外相の公式コメントは以下のとおりだ。
『(前略)選挙が円滑に実施されたことは、台湾で民主主義が深く根付いていることを示すものとして評価する。台湾は日本にとって基本的な価値観を共有し……(後略)』
無難なコメントに見えるが、問題だらけのようだ。
池田
「まず、『選挙が民主主義の根付きを示すもの』という部分。これ、中国側が聞いたらどう思うか? 裏を返せば、『選挙を行なわず、民主主義が根付いていない中国を評価しない』と、日本の外相が公式に非難してきたと捉えられてしまうんです」
なるほど!
池田
「さらに、『台湾と日本は基本的な価値観を共有している』という部分もマズイ。基本的な価値観とは、自由と民主主義、人権に対する考え方のことです。つまり、自由も人権も制限された全体主義の中国を暗に批判していると解釈されてしまう」
岸田発言は、台湾側に対しても間違ったメッセージになってしまうおそれがあるという。
池田
「台湾のマスコミは常に日本の動向を報道している。岸田発言は、台湾世論を『日本が応援してくれそうだから中国にもっと強気に出るべし!』という空気にさせかねない。世論は政治決断に大きな影響を与えますから、深刻な問題ですよ」
岸田発言はあくまで個人的な見解だとは理解されないの?
池田
「公式コメントなので、それはあり得ない。外務省が下書きした原稿を、内閣、つまり安倍首相も菅官房長官も確認したうえで外相が発表する。したがって、岸田さんの発言は日本政府の公式見解となります。
日本の不用意なコメントが、台湾の独立機運に火をつけ、中国との緊張状態を促すかもしれない。
そうなったら日本はどう立ち回るのか? 残念ながら、台湾の人たちが期待するような行動はできないでしょう。今の日本に、中国と戦う実力もなければ気概もありません」
そうなの!?
池田
「北朝鮮の拉致問題を見てください。自国民を100人以上も拉致されたら、普通は戦争ですよ。
国家の使命は国民の生命と財産を守ることなのに、日本政府は拉致の存在にさえ長年気付かず、拉致が表面化した後も責任回避のために認めず、渋々認めた後も救出できない始末。北朝鮮相手でもこの有り様なのに、今の中国に真っ向から立ち向かえるわけがない」
東日本大震災のとき、最も支援してくれたのは台湾だった。それなのに公式な味方をしてあげられないなんて、外交と安全保障のリアルは残酷だね……。
週刊プレイボーイ 2016年 No.6号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 vol.20」より