議員たちはテレビ中継の時間を狙って行動する!
現在、国会では予算案の集中審議が行なわれている。ものすごく重要な議論がなされている……はずなのだが、テレビの生中継を見ると、国会議員たちは予算と関係のないスキャンダルの追及に明け暮れ、居眠りをする姿も目立つ。なんで?
池田
「結論から言ってしまうと、やることがないからです。
国家予算を国会で審議するのに、国会議員のやることがないというのは不思議に感じるでしょうが、その理由を理解するには、予算が作られる手順を知る必要があります」
予算が編成される流れは、以下のとおりだという。
①8月末までに、各省庁が財務省に対し『概算要求』を行なう。
②概算要求をたたき台にして、12月までに財務省と各省庁間で調整をする。
③調整された予算案を、年末に内閣が閣議で承認をする。
④最後に、内閣が承認した予算案を国会に提出し、それを国会で審議し、採決する。
このように、最終的に決定されるのは国会なんだから、議員がやれることはありそうだけど……。
池田
「理屈ではそうなのですが、現実はそうじゃない。
だって、内閣が承認した予算案が国会に提出されるんです。多数の議席を占める与党議員が、自分たちの上司である内閣が提出した予算案にケチをつけるなんてあり得ないでしょ?
予算審議とは、形式的に質疑応答をしているだけなのです。
みなさんが目にしているテレビ中継も、議論のフリをしているだけ。中継がないときなんて、居眠りなんてまだマシで、退席して事務所に帰っちゃったり、国会内の別室にいる議員も多く、議場はガラガラなんですよ」
そーなの!?
池田
「与党議員から大臣に対して行なう質問も、中継のない時間帯にやる場合がほとんど。味方同士の質疑応答は完全に慣れ合いなので、国民に見せたくないですから。質問者も若手議員にやらせて経験を積ませる場にすることが多いですね。
逆に、野党からの質問時間はテレビ中継に合わせる。一応、議論しているように見えるからです。
そして野党議員にとっては全国放送で知名度を上げるチャンスなので、目立ちたいベテラン議員が積極的に出てくる。
しかし、どんなに予算の内容にケチをつけても、最終的には与党に多数決で勝てないからダメージを与えられない。
だから閣僚などのスキャンダルを懸命に探し出して、テレビ中継される場で追及したがるのです」
国会の予算審議が事実上、儀式とアピールの場になっているということは、各省庁の役人が作った概算要求は、財務省の役人との間で調整され、それがそのまんま可決されちゃってるってこと?
池田
「そのとおりです」
国家予算は、国民の代表者たる国会議員じゃなく、役人に全部決められているのか……。
池田
「平成21年(2009年)に民主党が政権交代を実現したとき、民主党政権は、霞が関が出した概算要求の内容をゼロベースで見直す『事業仕分け』に挑戦しました。
しかし結果は、概算要求内容をほとんど変えられなかったうえ、『こども手当』といった党の政策を盛り込むために、予算額を増やしてしまった。巨額な国家予算を、短時間で根本から変えることは不可能なのです」
じゃあどうすればいいの?
池田
「政治主導で予算を編成したいのなら、まず、概算要求が行なわれる前の夏までに、国会で大枠の予算額を決めるべきです。
どんな分野の予算を充実させて、逆にどの分野を削減するのか。『増減の分野』と『総額』を政治が決め、細かい内容と調整は役人に任せる。本来、これが正しい手順だと私は思う。
しかし現実は、国会が概算要求の前に予算案を審議した前例はなく、夏場の国会議員たちは『外遊』という名の海外旅行や選挙区回りに精を出すのが恒例なのです」
週刊プレイボーイ 2016年 No.5号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 vol.19」より