Last updated 2018-03-23

出口の見えない「テロ戦争」が日本に及ぼす本当の影響とは?

アメリカの衰退に狂喜し増長する中国


 前号まで、テロは現代の戦争であり、安倍首相が「テロを断じて許さない!」と宣言した瞬間、日本も戦争状態に入ってしまったこと、そして、「テロ戦争」は欧米諸国の「余計なおせっかい」から始まったことをお話ししました。

 今週は、テロ戦争がアメリカや中国、そして日本に与える影響を解説します。

 アメリカは今、出口の見えないテロ戦争に疲弊しきっています。

アメリカは自他共に認める「世界の警察官」ですが、もうその役割を果たすための余力が残っていない。つまり、自国に関係のない地域の新たな紛争には、深く介入できない状態に陥っているのです。

 そんなアメリカの苦境を見て、狂喜している国がある。
 そう、覇権国家への道を驀進中の中国です。
 中国は、ある事件をきっかけにアメリカを恐れなくなった。昨年2月、ロシアが武力行使を伴う形で強行した「クリミア半島併合」です。欧米諸国はロシアを強く非難しましたが、結局は経済制裁を行っただけ。併合も止められなかった。

 中国はこう思ったはずです。「アメリカはロシアに経済制裁はしたけど、軍事行動は出来なかった。ならば、今やロシアよりも強い(と自負している)中国を相手に軍事行動を起こすことなど不可能だな」と。

 最近、中国が南シナ海のスプラトリー諸島でサンゴ礁を埋め立て、空港などを作っていることが問題になっています。しかし、そもそも中国は10年以上前から、ベトナムやフィリピン、マレーシアなどと、領海や領土を巡る摩擦を繰り返しているのです。

 そして中国は、クリミア危機以降、明らかに強気になり、正面切って南シナ海の制覇に乗り出します。アメリカや日本が国際会議などでこの問題を指摘しても、「当事者以外が口を出すな」と警告する始末です。

 南シナ海から東南アジアを経てペルシャ湾に至る海路の安全は、日本人の生命と財産を守り、経済活動を維持するためにも、絶対に守らなければならない最優先事項です。
 いわゆる「シーレーン」と呼ばれる石油輸送の動脈は、とにかく平穏無事でなければならない。

 しかし、東シナ海では尖閣諸島の領有権を主張し、南シナ海の公海上には基地付きの人工島を突如作るような国が、シーレーンの平和に貢献するとは考え難い。

 にもかかわらず、安倍首相や国の首脳部が、中国の南シナ海進出に対してどこか能天気な印象を受けるのは、「アメリカが何とかしてくれる」と安心しているからでしょう。

 確かにアメリカは、日本以上に中国の狼藉ぶりを懸念しています。
 だから10月末には、中国が領海だと主張するスプラトリー諸島付近の海域に、米海軍のイージス艦を航行させました。報道では、「アメリカに軍事力で劣る中国にとって、イージス艦の派遣は一定の圧力になった」などと解説されている。しかし、それは間違った分析です。

 派遣されたイージス艦は、国際法上の「公海」にあるはずの人工島への上陸を試みることすらなく、ただ素通りしただけだった。

 これは致命的なミスだと言えます。中国にとって、攻撃してこないイージス艦など、大型のクルーズ船と何ら変わらないからです。

 中国はここでさらに、テロ戦争で手一杯なアメリカの弱体化を実感したことでしょう。

 世界最強国のアメリカでさえ、テロ戦争を遂行しながら中国とコトを構えることはもはや不可能だというわけです。

 日本の生命線であるシーレーンを守るために、日本が単独ででも中国と対峙するために、今、日本がやるべきことは何か?

 それは、アメリカですら苦しむテロ戦争のアリ地獄から、一刻も早く離脱することです。決して、「テロを断固許さない!」などと、勇ましい言葉を吐くことではありません。

週刊プレイボーイ 2015年 No.52号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 vol.16」より

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