Last updated 2018-03-23

小泉進次郎 5兆円を動かすポスト就任で「首相になる日」が一気に近づいた!!

 10月20日、小泉進次郎が、自民党の「農林部会長」というポストに就任した。

 聞き慣れない役職かもしれないが、要するに自民党の農業政策をとりまとめる役割だ。これについて各紙は「大抜擢人事だ」とか、逆に「TPP対策で大荒れになるので誰もやりたがらない、不人気ポストを押しつけられた」などと騒いでいる。

 しかし、農業政策の専門家や党内事情に精通した関係者たちに徹底取材をした結果、そうした分析は急所を外しまくっていることが判明!

 TPP大筋合意の後というタイミングでこのポストに就任したことは、とてつもなく巨大な権力を手にすることを意味していた!!
 しかも、任命した安倍首相も想定外のレベルで、だ。

 どういうことか?

昔は超厄介だった農林部会長ポスト

 まず今回の人事を、『政界斬鉄剣』連載中の政治評論家、池田和隆氏に解説してもらおう。
 池田氏は農林水産大臣秘書官の経験者であり、秘書時代に仕えた松岡利勝元農水相は農林部会長も経験していた。自民党の農政事情を誰よりも理解している人物なのだ!

「自民党には、国防部会、経済産業部会など、分野ごとに13の部会があります。そしてそれぞれの部会長には当選2、3回の議員が配置される。
 しかし農林部会長は昔から“厄介なポスト”として有名なので、当選3回から5回の議員が任命されてきた。小泉進次郎さんは当選3回なので、ごくごく順当な人事と言えます。『大抜擢人事だ』と書いている新聞は、基本をわかっていません」

 逆に、ただでさえ厄介なポストなのに、TPP大筋合意直後ということで、さらに大変な役職になると予測する識者も多い。
 だから安倍首相は、進次郎氏の将来のために鍛えようとしているとか、逆にイジメ人事だとの分析も出ている。が、池田氏はこの分析もバッサリ。

 「実際は逆です。結論を先に言うと、史上空前の超おいしいポストに変身しちゃう。このカラクリを理解するには、農林部会という組織の構図と、選挙制度の変化が政治家に与えた影響をざっくり知る必要があります」

 まずは農林部会長というポストが持つ、独特の難しさについて。

「自民党の組織図を見るとわかりますが、『部会』の横並びに『調査会』や『特別委員会』といった組織がある。さらに部会の下には『小委員会』という組織もあります。

 そして予算やTPP関連のような重要案件を話し合う際には、『合同会合』といって、部会メンバーに調査会長、特別委員長、小委員長も加わる。これが厄介さを生む第一の要因です。
 なぜか。

 調査会の会長には、当選7回から10回ほどで大臣を複数回経験した超大物議員が就く。
 特別委員会の委員長は当選5回から8回。小委員会の委員長は当選4回から6回。

 それに対し、農林部会長は当選3回から5回レベル。なのに、合同会合の議事進行役は部会長が務めるのです。

 つまり部会長は、常に大先輩政治家たちからの圧力を感じながら各方面の利害を調整しなければならないわけです。特に農林部会は、関係者たちの利害が真っ向から対立することが多く、非常に難しいポジションでした」(池田氏)

 その「各方面の利害」とはどういうこと?

「コメ政策の例で説明しましょう。まず、部会長を任命した党執行部(総裁や幹事長ら)は、自民党が与党である限り『イコール政府』なので、コメ生産量を減らす『減反政策』を推進する。

 それに対し農家やJAは、水田を減らす代わりの補助金やコメ買い取り価格の値上げを要求する。そして彼らに選挙を支援してもらっている族議員は、農家の利害を代弁する立場をとります。

 一方、財務省はなるべく予算額を減らすよう農水省に圧力をかける。同時に、自民党に対しては財政上の危機感を煽り、米価も補助金も抑制しようとする。

 でも、進次郎さんは農林分野の経験がゼロだから、農水省の官僚が『レクチャー』という名のもと、役所に都合のいい資料で都合のいい説明を繰り返すでしょう。

 このように、農林部会長を取り巻く人たちの利害を調整するのは難しく、厄介なポストとされてきたのです」(池田氏)

父である純一郎氏が族議員を駆逐した!!

 しかし現在、農林部会長のポストは、そうした難しさとは無縁になっていると池田氏は言う。どういうことか。

 「状況を変えた大きな原因は、選挙制度の変化です。
 ひとつの選挙区で複数人が当選する中選挙区制の時代までは、例えば農林分野の場合、農林業関係者からの支持をガッチリと固めれば、あともう少しの努力で当選できた。つまり、党の力に頼らずとも当選が可能だった。

 だから、もし選挙戦を支えてくれる業界団体と党執行部の意見が食い違った場合は、党の方針に逆らってでも自分の主義主張を通す議員も多かったんです。

 しかし現在の小選挙区制は、個人の努力だけでは当選できない。どんな大物議員でも、党や党首の人気次第で当落が決まってしまう。だから支持者よりも執行部の顔色をうかがって行動する議員ばかりになってしまった」

 では、今の話が進次郎氏にどう関係してくるのか?

 「進次郎さんはもともとTPP推進派。もちろん、執行部も推進派だから、両者の意見は一致しています。

 対立するのはJAや族議員たち。そして今回、農林水産戦略調査会長に就任したのは西川公也元農相。彼は農林業界の“大物族議員”と呼ばれていますが、私から言わせれば“エセ族議員”。業界からの人気はなく、選挙も弱いし影響力もない。進次郞氏の敵が西川氏では、楽勝もいいところでしょう」(池田氏)

 西川氏の不人気ぶりについては、彼のお膝元、栃木県の某JA幹部も同意する。
「西川さんがわれわれのために身を挺して頑張ってくれた記憶はないですねえ。彼は一応、農業関係者たちの味方という姿勢をとっていますが、あの人が見ているのは執行部の顔色ばかり。

 彼は党のTPP対策委員長も務めていましたが、日本の農業を守るための行動には一切出なかった。きっと族議員なのに何もしないことが安倍さんからも評価されて農水相になったのでしょう。

 西川さんの人気は地元でも低い。彼の選挙区は農村部を多く抱えるけど、現職の農水相として迎えた前回の選挙では、自民党に追い風が吹いていたのに小選挙区で敗北。比例区での復活当選でした。

 そんな人なのに、進次郎さんには先輩風を吹かせるんでしょうね。
地元で、進次郎は俺の弟子だとか言って自慢する姿が目に浮かびます」

 西川氏が進次郎氏の障壁になることはなさそうだーー。
 ほかの族議員たちにも進次郎氏の敵になるような存在は見当たらない。

 自民党幹部関係者が言う。
「進次郎さんのお父様である小泉純一郎元首相が、郵政解散総選挙をやったでしょ。あのとき、郵政民営化に反対した族議員たちを全員追い出して、その選挙区に刺客まで送り込んだ。あれ以降、党の方針に逆らう族議員なんていなくなりましたよ。
つまり、お父さんのムチャな行動が、今になって息子の手助けになっているんですよ」

34歳の若者が持つ巨大な権力の正体

 残された進次郞氏の敵は、農水省とJAだ。

 しかし、農水省のキャリア官僚がこう証言する。

 「意外かも知れませんが、小泉純一郎元首相は、史上最強クラスの“厚生族議員”で、厚生省(現・厚生労働省)やその関連団体に大貢献をしたし、業界からはハンパない額の政治資金を得ていた。
 しかし族議員のイメージもなければ、政治とカネのスキャンダルが浮上したこともない。

新聞記者たちも接待漬けにしていたからです。

 逆に、彼はいったん“敵”と思った相手には、国益なんか度外視して恨みを晴らす。代表的なのは郵政民営化です。純一郎さんが郵政大臣のとき、郵政省(現・総務省)の官僚たちから意地悪をされたんですね。それで、大臣の任期中は執務室で漫画を読み続けて官僚を油断させ、自身が権力を手にしてから郵政民営化を断行した。

 そのDNAを引き継ぐ進次郎さんがどのような性質を持つ人物なのか、各省庁は様子を見ている状況だと思います。農水省が今の段階で進次郎さんを敵に回す行動に出ることはないと思いますよ。むしろ今回を機に良好な関係を築こうとするはずです」

 これで残るはJAだけ!

 前出の池田氏が解説する。
「もしTPPに合意する前なら、JAは味方にならなかったはず。しかし、既に決まったことに反対しても意味がないので、JAは必ず『TPP対策費』をめぐる条件闘争に移行する。だからJAは進次郎さんにすり寄るはず」

 すり寄る?
「私が秘書時代に仕えていた松岡利勝元農水相は、大物の農水族議員でした。

 約20年前、TPPと同様の自由貿易協定の枠組みである、『GATTウルグアイ・ラウンド』の交渉をやっていた当時のことです。松岡さんは、合意前の段階で『ウルグアイ・ラウンド対策費』という予算を勝ち取りました。農家の損害を補償したり、農業の国際競争力を高める名目などの予算でしたが、その額は8年間で6兆100億円でした」

 6兆円!! この話には驚きの後日談がある。

 「結局、GATTは合意に至らなかった。それでも予算は毎年計上され続けたのです。

 この“おいしい記憶”を農水省やJAは今も鮮明に記憶しています。
 だから今回も、『TPP対策費』のような名目で莫大な予算を計上させるでしょう。当時と今とでは、日本の経済状況も違うので、6兆円とまではいかないでしょうが、巨額であることに変わりはないでしょう。」(池田氏)

 巨額の予算を左右できる人物には必ず巨大な権力が発生する。34歳にしてカネと権力の中心に身を置くという経験は、小泉進次郞氏の首相への道を、一気に近付ける契機になるはず。

 前出のJA幹部によると、TPP対策費は1挑円から5兆円の攻防になるという。
 
 進次郎氏が首相になる日が早るとなれば、谷垣幹事長や石破元防衛相ら、『ポスト安倍』組の心中も穏やかではないはず。

 この点について、自民党の元大物議員がこう分析する。

 「安倍は、進次郎くんを政権支持率アップのために利用したい。TPP問題は、まだ国民に知らされていない部分が多い。もし今後、自民党内で内輪モメが起きれば、TPPのマイナス面が明るみに出て、支持率低下につながる。だから人気者の進次郎くんを農林部会長に据え、問題が拡大するのを防ぐ計算があると思う。族議員もマスコミも、人気者はイジメにくいからね。そうやって政権の延命を図り、東京オリンピックまで政権を維持したいんだろうな。

 進次郎くんの言動を見ていると、お父さんの指示を忠実に守っているんだと思う。天才的な勝負勘を持つ父の知識と経験と感性が、34歳のカッコいい若者の肉体を通して躍動すれば、そりゃあ日本中が彼に期待を寄せるよ」

 安倍政権が延命し、進次郎氏の首相就任時期が早まれば、次期首相候補者たちのチャンスは消える。進次郎氏の最大の敵は、ポスト安倍の面々になるのかもしれない。



週刊プレイボーイ 2015年 No.46号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 」特別編より

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