今の時期に中小政党が離合集散する本当の理由
今週は政党の分裂や合流騒ぎについて解説しましょう。
現在、維新の党や次世代の党の「分裂」や、民主党との「合流」が、野党再編に向けた動きではないかなどと報道されています。過去に何度も繰り返されている政党の離合集散劇ですが、今回はどのような展開になるのでしょうか?
彼らの「行動原理」は極めて単純です。政治家の集まりである政党には、自分たちの議席を維持したいという“生存本能”しかありません。ただ、本能ムキ出しの状態では“少しだけ”恥ずかしいので、国民の生活や政治理念などを言い訳にするのです。
私が身近に見てきた「自社さ政権」(自民、社会、さきがけ)や民主党の誕生、そして現在の「自公連立政権」(自民、公明)などは、政党の生存本能ばかりが露骨に出た典型例でした。悲しいかな、そこに政治理念はまったく存在していません。
政治家の“生存本能”には3つのパターンがあります。
①長いものには巻かれろ!
小さな政党は、分裂してでも自ら率先して大きな政党に飲み込まれていきます。より大きな政党に属した方が選挙での生存確率が高まるからです。
しかも現在、参議院議員と中小政党にとって非常に“おいしい現象”が起きています。驚くべきことに、安保法案をエサにすると、中小政党や無所属議員たちが自分の「議席」を大政党に“高く売りつける”ことができるのです。安保法案に反対すれば民主党が、賛成なら自民党が“暖かく”迎え入れてくれる。もはや安保法案は国の未来を左右する一大事ではなく、次の選挙で生き残りたい議員たちのための“保身パスポート”に成り果てていいます。
いくら来年7月に参議院選挙があるからと言って、ここにきて“急に”政党の離合集散が加速している背景には、こういう信じ難い動機があったのです。今回の維新の党や次世代の党などの分裂、合流騒動もこのパターンにあてはまる。
②政策の一致より選挙区調整!
小政党が分裂、合流するのはあくまでも「生存」が目的ですから、合流先の議員と選挙で競合するのは非常にマズい。そこで重要になるのが「選挙区調整」というものです。 仮に、国会議員10人の政党Aが、ある大政党Bと一緒になる例で説明しましょう。A党の10人の選挙区がB党の10人のそれと完全に重なっている場合、彼らが潰し合わないように20人分の選挙区の割り振りを調整する必要があります。
さらに各選挙区には各党の選挙を支える都道府県支部や支援団体などがあり、この関係者たちも加えた非常に多くの人たちが「選挙区調整」の対象者となるのです。
私の経験から言って、ほぼ毎日のように各議員やその選挙関係者たちが「調整」ための会議をしても、個々の思惑も錯綜して簡単には決まらない。20人規模の「選挙区調整」でさえ、最終決定までに3、4ヶ月以上はかかります。来年7月の参議院選挙を考えると、もう待てないタイミングなのです。
急いで歩み寄った割に維新の党と民主党の「合流」の行方がいつまでも不透明なのは、水面下でこの「選挙区調整」を必死にやっている真っ最中だからです。決して政策の一致を目指す話し合いを行っているわけではありません。
③腹が減っては戦はできぬ!
最後にお金の問題も加わる。政党が国からもらえる政党助成金の交付額は、12月31日時点の議席数で決まります。だから年末にあわてて新党を結成する例が後を絶ちません。政党同士が「合流」する場合、政党はひとり分でも多くの助成金をもらいたいので、必死に「選挙区調整」をやるのです。
情けない話ですが、これが延々と繰り返される政党と政治家による離合集散劇の真相です。
週刊プレイボーイ 2015年 No38号「池田和隆の『政界斬鉄剣!!!』 vol.4」より